「仁義なき戦い」は今や日本映画の名作と評価されるが、封切り時は「女番長(スケバン)」との二本立て、ただの娯楽映画だった。本書は「仁義~」を東映という映画会社が生んだ歴史的必然としてとらえ、日本近代史のなかに位置づけようとする。
「仁義~」は広島の原爆の映像で始まる。それは戦後の混沌の象徴であり、深作欣二監督は善玉悪玉の区別なくヤクザの群像をゆれるカメラで描いた。殺陣師・上野隆三や撮影監督・吉田貞次の生々しい証言が現場の熱気を伝えている。
この創造の現場を支えたのは、脚本家・笠原和夫の緻密なドラマ作りだった。
笠原は現地調査と聞き書きを欠かさず、また、例えば「二百三高地」のための年表は細かい字でびっしり書かれ、四メートルにも及ぶ。執念の賜物である笠原の膨大な取材ノートの一端を実際に見られるだけでも本書の価値は絶大である。
ドキュメントと歴史展望のバランスが見事にとれた映画ファン必読の好著だ。