江戸川乱歩、南方熊楠、稲垣足穂。彼らは揃って男色に尋常ならざる関心を抱いていた。そして、この三人と因縁浅からぬ岩田準一の
『本朝男色考 男色文献書志』こそ、この分野に興味をもつ者すべてが出発点におくべき書物だが、岩田は在野の研究者だった。 日本は世界に稀(まれ)な男色に寛大な国だとよくいわれるが、男色研究に日本のアカデミズムは寛大ではない。そこで岩田のような在野の人の努力が貴重になる。 本書の編者も在野の精力的な研究者である。岩田の筆は室町時代でとまっているが、本書は、明治から昭和までの文献を集めている。 男娼の実態、明治の学生の男色(森鴎外も被害にあった!)、若衆歌舞伎、陰間茶屋から、犯罪や「秘技」に至るまで論点は多岐におよぶが、序論でオウム教団と男色との関係を報じた「東京スポーツ」の記事から論じはじめるなど、編者の柔軟な姿勢のおかげで、じつに読んで面白い本になった。脚注も親切で有益だ。