退屈な読書
- 著者:高橋 源一郎
- 出版社:朝日新聞社
- 装丁:単行本(253ページ)
- 発売日:1999-03-00
- ISBN-13:978-4022573759
- 内容紹介:
- 死んでもいい、本のためなら…。すべての本好きに贈る世界でいちばん過激な読書録。
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それがどんな未来なのかを、わたしに聞かないでください。マルクス流に言うなら「ありうべき社会における理想の関係についてわたしは語ることができない。なぜならわたしはこの性差別社会ですでに性別社会化を受けてきたせいで、わたしの想像力はこの地平を超えることがないから」とでも答えましょう。
性と人格が切り離されれば、売春はとくべつな労働ではなくなり、強姦は女性の尊厳に対するとくべつな侵害ではなくなります。松浦理英子さんが「嘲笑せよ、強姦者は女を犯せない」で主張したのはそのことでした。なぜ性器に対する暴力が、身体の他の部位に対する暴力とちがって特権的に人格を侮辱する行為と考えられるのか。そしてそのためになぜ、被害者はとくべつなトラウマを負わなければならないの? 他人から暴力を受けることはたしかにゆるしがたいことではあるけれども、なぜ不幸にして骨を折ったとか外傷を受けた、と同じように受けとめることができないのか。松浦さんのこの挑発的な文章が『朝日ジャーナル』に載ったとき、「強姦被害者の心情に無理解で、強姦犯を利するもの」という激しい反発が女性の読者から寄せられました。……。この論争が示すのも、性の「近代パラダイム」のどちら側に立つか、のちがいのようにわたしには見えます。たしかに現状では松浦さんの説は「現実的」ではないでしょうけれど、どちらが家父長制パラダイムの「改革者」であるかはあきらかです。