若いときは、老後のことなんか考えなかった。自分は中年になる前に死ぬだろうと思っていた。ところが予想は外れ、まだ生きている。50歳を過ぎたころから、漠然と老後が気になってきた。子供もいないし、「きずな」とか「ふれあい」が大嫌いなので、「孤独死、上等!」と思っている。
上野千鶴子『在宅ひとり死のススメ』(文春新書・880円)は、『おひとりさまの老後』(法研・2007年)に始まる「おひとりさま」シリーズの総仕上げ的な本。「孤独死」を「在宅ひとり死」と言いかえたところが画期的だ。孤独死は悲惨で哀れ、というイメージを払拭する。読んでいて「ひとりで死ぬ方がハッピー!」という気分になってくる。
「老後はおひとりさまが一番幸せ」というデータが出てくる。大阪府下で開業する医師が調査した結果だ。独居高齢者のほうが、同居高齢者よりも生活満足度が高いというのである。意外なようだが、少し考えると納得できる。複数の人間がひとつ屋根の下に住めば不平不満も生じるし、我慢を強いられることもある。
もっとも、この種のデータはあくまで全体の傾向。個人にあてはまるかどうかは、また別の話だ。独居がつらいという人もいれば、同居が快適だという人もいるだろう。
おひとりさまでも最期は(施設や病院ではなく)住み慣れたわが家で、と上野は言う。これ、少し前までは、ちょっと難しかった。それを変えたのが介護保険だ。訪問介護や訪問医療などさまざまな制度をうまく組み合わせれば、在宅ひとり死は難しくない、というのである。介護保険は「子供(実は嫁)が親の面倒を見る」という悪習を過去のものにした。日本の介護保険、世界レベルでもそう悪くはないらしい。
ところがその誇るべき介護保険は、2000年のスタート以来、3年に1回の改定ごとに使い勝手が悪くなっているという。わたしが死ぬころにはボロボロになっているかも。これ以上の改悪は許しません!