退屈な読書
- 著者:高橋 源一郎
- 出版社:朝日新聞社
- 装丁:単行本(253ページ)
- 発売日:1999-03-00
- ISBN-13:978-4022573759
- 内容紹介:
- 死んでもいい、本のためなら…。すべての本好きに贈る世界でいちばん過激な読書録。
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『でもぉ、本当は就職なんかしないでぇ、結婚しちゃいたいよねぇ』
『そうよねぇ、顔はちょっとダサくても、金持ちだったらもうラッキーみたいな』
週刊誌に書かれているような女子大生って、本当にいるのである。私はそのことに驚きながら、先日会った、小沢なつみの言葉を思い出していた。
『将来ですか? どんなに貧乏でもいいから、結婚して愛のある生活を送りたいですね。でも、三度も中絶してますから……結婚は、無理かもしれませんね……』
だんだん女子大生たちの声が遠くに聞こえるようになってきた。
『お店に来てくれるお客さんって、みんな、わたしの恋人だと思ってます。奥さんに言えないことややれないことを、わたしに求めて来てくれるんですからね。嬉しいですよ』
もう女子大生の声は聞こえない。
今夜こそは家人が寝静まった後、恋人・小沢なつみにたっぷり慰めてもらおう。
後日、私は……安藤有里の原稿を読む機会に恵まれた。縦書きの原稿用紙にきちっと書かれたその文字は、彼女の繊細な性格をうかがわせた。……。《最後に、私はタオルにかすかに残った柔軟剤と、靴屋さんの匂いも好きです》これはその、いろいろと匂いについて語った、文章の締めである。行替えをし、なにやらつけ足すようなこの一行でエッセイは終わる。私はこの一行が好きだ。上手く言えないが、この一行が安藤有里からT氏への送別の辞のように思える。