暴力、性…悪と響きあうバンドの物語
「俺がギターを取り上げ、〈Jumpin’ Jack Flash〉のリフをかき鳴らしたとたん、何かがここで起こるんだ、腹の真ん中あたりでさ。[…]たぶんこの世代の人間が全員それを感じてるんだ。爆発さ。退屈とか、順応主義に対する反抗。[…]ローマの門に押し寄せた野蛮人ってところさ」
ローリング・ストーンズのテーマ曲について、作曲者の一人のキース・リチャーズはこう語る。本書の著者の立場も同じだ。つまり、ストーンズの評伝はあるバンドの記録ではない。それは私たちの時代を描きだす伝記になるのだ。
ストーンズが三、四十年前、あれらの歌を歌ったのは、私たち自身がそう望んだからだ。彼らが片手を挙げると、世界がこだまを返した。彼らの歴史は現代の大きな悪と響きあっている。ドラッグ、風俗の自由、そして傲慢を貫く必然性。
したがって、本書は、たった一つのギターのリフがどれほどの力を発揮しうるかを精細に分析する音楽研究書であると同時に、私たちの時代を貫くドラッグとセックスとバイオレンスの物語にもなっている。それはスターを飾る挿話ではなく、現代の本質に通じる回路だからだ。
その記述が白熱するのは、彼らが頂点を極める一九七〇年前後を描く一章である。その絶頂の下で、ストーンズの創設者ブライアン・ジョーンズがプールで溺死し、リチャーズの親友グラム・パーソンズの死体がアリゾナの砂漠で焼かれ、オルタモントのコンサートで観客が暴走族にナイフで刺し殺される。水と火と鉄による偶然の三つの死は、ストーンズの徴(しるし)の下で、現代を象徴する必然となる。
著者のボンは現代フランスを代表する小説家の一人だが、四十年以上に及ぶストーンズの熱烈なファンで、厖大な資料を集め、関係者に会い、無数の読み捨て雑誌、海賊版のビデオ、CD、インターネットのサイトを逐一照合して、信じるにたる事実のみを収集した。その結果、大判二段組み、八〇〇ページ近いこの巨大な本は、ストーンズ伝の決定版になった。
ボンの文体のスピード感を日本語に移しえた訳者の力量を心から称えたい。