書評

『弁護側の証人』(集英社)

  • 2019/02/09
弁護側の証人 / 小泉 喜美子
弁護側の証人
  • 著者:小泉 喜美子
  • 出版社:集英社
  • 装丁:文庫(260ページ)
  • 発売日:2009-04-17
  • ISBN:4087464296
内容紹介:
ヌードダンサーのミミイ・ローイこと漣子は八島財閥の御曹司・杉彦と恋に落ち、玉の輿に乗った。しかし幸福な新婚生活は長くは続かなかった。義父である当主・龍之助が何者かに殺害されたのだ。真犯人は誰なのか?弁護側が召喚した証人をめぐって、生死を賭けた法廷での闘いが始まる。「弁護側の証人」とは果たして何者なのか?日本ミステリー史に燦然と輝く、伝説の名作がいま甦る。

見事復活、直球ミステリー

大富豪の御曹司に見初められて結婚した元ヌードダンサーの漣子(なみこ)。やっと幸福を手に入れたと思いきや、ある夜、夫と不仲だった義父が何者かに殺害される。昭和30年代の当時、尊属殺は死刑か無期刑の重罪。真相を追究する新妻がひらめいたある証人の存在とは?

ミステリー通の間では「幻の傑作」と噂(うわさ)されていた1963年発表作品。78年に文庫化されたが最後の重版は87年、累計部数は9万部どまり。昨今の評判を受け昨春に復刻したところ、1年足らずで7万部を突破。口コミで評判が広まり、重版スピードは加速中だ。

著者の故・小泉喜美子氏といえば、P・D・ジェイムズやジョセフィン・テイなどの海外推理小説の名翻訳者でもある。そのためか、「登場人物たちをそのまま外国人に変えても通用する内容。郊外の大邸宅で大金持ちが殺されるという常套(じょうとう)的な舞台設定からして、海外の古典ミステリーの味わいも」と編集者の瀧川修さん。確かに刑法の違いをのぞけば、本書には時代も場所も選ばない普遍性がある。余分な心理描写や複雑な背景を排除した直球ミステリーであることが、名作として復活を遂げた一因といえる。

ただ、シンプルな展開だからこそ、終盤で起きる逆転劇には思わず「ああっ!」と声をもらしてしまう。そして、特別な意味などないように思えた記述にも、時に読者を真犯人に引き寄せようとし、時に真実から遠ざけようとする著者の細心の注意が払われていたことに気づき、唸(うな)ってしまうのだ。

おそらく執筆の出発点は、たったひとつのアイデアだったのではないだろうか。そこに的を絞って書き上げた印象だ。しかし、そのトリックを成立させるために潜ませた人間ドラマには奥深いものがある。漣子の葛藤(かっとう)と芯の強さ、そして証人となった人物の心情を思うと、謎解きの爽快(そうかい)さとはまた違った味わいが生まれてくる。
弁護側の証人 / 小泉 喜美子
弁護側の証人
  • 著者:小泉 喜美子
  • 出版社:集英社
  • 装丁:文庫(260ページ)
  • 発売日:2009-04-17
  • ISBN:4087464296
内容紹介:
ヌードダンサーのミミイ・ローイこと漣子は八島財閥の御曹司・杉彦と恋に落ち、玉の輿に乗った。しかし幸福な新婚生活は長くは続かなかった。義父である当主・龍之助が何者かに殺害されたのだ。真犯人は誰なのか?弁護側が召喚した証人をめぐって、生死を賭けた法廷での闘いが始まる。「弁護側の証人」とは果たして何者なのか?日本ミステリー史に燦然と輝く、伝説の名作がいま甦る。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2010年1月10日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

関連記事
瀧井 朝世の書評/解説/選評
ページトップへ