書評

『ぶたのたね』(絵本館)

  • 2019/10/29
ぶたのたね / 佐々木 マキ
ぶたのたね
  • 著者:佐々木 マキ
  • 出版社:絵本館
  • 装丁:単行本(1ページ)
  • 発売日:1989-10-01
  • ISBN:4871101126
内容紹介:
さぁ、美しい木々を見た後はこんなトンデモナイ木はいかが?なにしろ「ぶた」がなるのです。鈴なりです。そんな木が出てくるなんてどんな話でしょう?読んでのお楽しみ。

ぶたのたねに、ぎゃはは

単行本になった『かーかん、はあい』を読んでくれた友人が、こんなことを言う。

「選ばれた絵本、どれもいいんだけど、ちょっと真面目(まじめ)すぎるんじゃない? 足りないとしたらナンセンス系だね」

「ナンセンス系?」

子育てという点では、大先輩でもある彼のオススメにしたがい、私は何冊かの絵本を購入した。『ぶたのたね』『どろぼうがっこう』(加古里子作、偕成社・一〇五〇円)、『キャベツくん』(長新太作、文研出版・一三六五円)……確かに、こういうジャンルは、今まで縁がなかったな、と思う。

特に『ぶたのたね』には、ほんとうに驚かされた。ぶたよりも走るのが遅くて、まだ一度もぶたを食べたことのない狼が主人公だ。狼といえば、絵本の世界では悪役というのが常識だが、彼はまったく違う。

不憫(ふびん)に思ったきつねはかせが、狼にくれたもの、それが「ぶたのたね」だ。その種を撒(ま)いて育てると、ぶたの実がなり、好きなだけぶたを食べられるという。

息子は明らかに「ありえな~い」という顔をして聞いていた。読んでやる私自身もそう思った。

「エルマーのチューインガム、思い出しちゃうね」

「うん、そう、たくみんも!」

数日前、『エルマーのぼうけん』(R・S・ガネット作、渡辺茂男訳、福音館書店・一二六〇円)を読んだところだったので、二人とも同じことを連想していた。虎に食べられそうになったエルマーが「このチューインガムを噛んで、緑色になったら、地面に撒くといい。たくさんのチューインガムがなるから」と言って虎を騙し、難を逃れる場面があったのだ。もちろんチューインガムはいつまでたっても緑色にはならず、その間にエルマーは逃げることに成功する。どんなに危険な場面でも、彼は機転をきかし、そのたびに息子はいたく感心していた。

だから当然ぶたのたねも……と思っていたのだが、我々親子の予想は見事に裏切られた。大きくなったぶたの木の絵をめくると、次のページには「うわあ!」。枝に、何頭ものぶたがぶらさがっている。このページを見た瞬間の、何かが弾けるような、なんともいえない気分は、未体験のものだった。

「ぎゃははははは。ぶただ、ぶただ」

「ほんとに、ぶたのたねだったんだ」

息子と私は、壊れたように笑いあった。

エルマーのチューインガムは、生きる知恵としての嘘を教えてくれたが、このぶたのたねは、常識で硬くなった心に揺さぶりをかけてくる。なるほど、これがナンセンスというものの力か、と思った。

五歳になって、だいぶ分別くさくなってきた息子。今だからこそ、ここまで驚き笑えるのかもしれない。

【この書評が収録されている書籍】
かーかん、はあい 子どもと本と私  / 俵万智
かーかん、はあい 子どもと本と私
  • 著者:俵万智
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:文庫(224ページ)
  • 発売日:2012-05-08
  • ISBN:4022646667

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

ぶたのたね / 佐々木 マキ
ぶたのたね
  • 著者:佐々木 マキ
  • 出版社:絵本館
  • 装丁:単行本(1ページ)
  • 発売日:1989-10-01
  • ISBN:4871101126
内容紹介:
さぁ、美しい木々を見た後はこんなトンデモナイ木はいかが?なにしろ「ぶた」がなるのです。鈴なりです。そんな木が出てくるなんてどんな話でしょう?読んでのお楽しみ。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2008年12月22日

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