前書き

『近代大礼関係の基本史料集成』(国書刊行会)

  • 2019/03/26
近代大礼関係の基本史料集成 / 所功
近代大礼関係の基本史料集成
  • 著者:所功
  • 出版社:国書刊行会
  • 装丁:単行本(685ページ)
  • 発売日:2018-08-31
  • ISBN-10:4336062668
  • ISBN-13:978-4336062666
内容紹介:
復古と革新の精神で形作られた近代の践祚式・即位礼・大嘗祭・改元に関する主要な史料・絵図や論考からなる、近代大礼のエッセンス。
間近に迫った新天皇のご即位と改元は、国内のみならず、海外からも注目を集めている。しかし、この伝統的な大礼が、明治維新を境として、大きく変わったことはあまり認識されていない。この度の、そして今後の皇位継承にも先例として影響を与えるであろう近代の即位・改元について、重要史料を精選し、主要事項の成立過程を論じたのが『近代大礼関係の基本史料集成』である。「皇位継承に関するエッセンス」ともいうべき本書を、長年皇室儀礼の研究に携わってきた著者、所功氏による解説で紹介する。

明治・大正・昭和の即位と改元に関する貴重史料。

日本の皇室では、歴代の大王(おおきみ)=天皇が皇位を継承するたびに、何らかの即位儀礼を行ってこられた。その在り方は、当初おそらく素朴なものであったと想われるが、やがて中国や朝鮮からの影響を受け、王権=朝廷の権威を示すにふさわしい形が整えられた。それと共に励行されてきたのが、弥生以来の新嘗祭(ニイナメノマツリ)を、代始ごとに大規模な祭礼(大祀)として営む大嘗祭である。併せて「大礼」と称する(「大典」ともいう)。

このうち、前者の即位儀礼は、前帝の崩御か譲位の直後に三種の神器(鏡・剣・璽)等を受け継ぐ「践祚(せんそ)」の儀と、暫く準備を整えてから盛大に行う「即位式」の儀に分けられる。さらに、その前後、元来王権の年数公示シンボルである年号=元号を新しく定めて改める「改元」の儀を行うことも慣例となっている。

一方、後者の大嘗祭も、単なる収穫感謝祭ではない。それを含む祭祀は、8世紀初めに成立した『大宝(養老)令』の「神祇令」に、「およそ天皇即位したまはば、すべて天神地祇を祭れ」と規定され、また平安前期(9~10世紀)に成立した『貞観儀式』や『延喜式』などに、「践祚大嘗祭」と表現されている。

こうした践祚・改元・即位式・大嘗祭の諸儀は、朝廷の実権が衰退した中世・近世にも、国家の重大事として続ける必要があった。しかし、室町時代に段々と遅延して、特に地方( 悠紀(ゆき)・主基(すき))の協力を要する大嘗祭は、戦国乱世に中断してしまう。それが復興されたのは、二百余年後の江戸前期に朝幕関係が好転してからである。

それは近代に入ってからどうなったのか。大筋は古来の伝統を受け継ぎながらも重大な改革が行われてきた。今から約150年前の明治維新では、明治天皇のもとで新政府による「王政復古の大号令」「(新国是)五箇条の御誓文」などが次々打ち出された。その復古と革新が、「明治」の改元と即位式にも大嘗祭にも、随所にみられる。

それは同22年(1889)『皇室典範』に法制化され、さらに20年後の『登極令』(同附式)によって詳しい細則まで定められた。そのおかげで、それから3年後(1912)、明治天皇の崩御に伴い、右両法令に基づいて大正天皇の「践祚」と「改元」が行われ、大正4年(1915)「即位礼」と「大嘗祭」が京都で実施されている。

ついで大正大礼から11年後(1926)には、天皇の崩御によって、再び同様の「践祚」と「改元」が行われ、昭和3年(1928)「即位礼」と「大嘗祭」が再び京都において実施されたのである。

このような明治・大正・昭和の三代にわたる近代的な大礼のもつ意義は、政治史的にも文化史的にも極めて大きい。明治勅定の両法令は戦後(1947)廃止されたが、それから42年後(1989)、昭和天皇の崩御に続く皇位継承の儀式は、『日本国憲法』との整合性を熟慮しながら、おおむね大正・昭和の先例に準拠して、多少の変更を加える形で実施された。その意味で、近代的な大礼は、今後の皇位継承に際しても、参考とされるにちがいない。

ところで私は、昭和40年代中頃から平安時代の宮廷儀式に関心を寄せ、基本的な文献調査を中心に研究を進めてきた。ついで約20年後、「平成」の改元と即位礼および大嘗祭などに際して取り組んだのが、明治・大正・昭和の大礼関係記録などを精査しながら、その基本資料を学術誌等に翻刻・紹介することである。

あれから30年近く経った今日、幸い今上陛下は御壮健であられる。しかし、御高齢を理由に皇太子殿下への譲位を決意され、それを可能とする特別法も成立した。従って、2019年には、約200年ぶりの譲位に伴う践祚・改元、および即位礼・大嘗祭を迎えることになろう。

このような機会に、「近代大礼」の在り方を研究しようとする人々などの手懸りになることを念じながら、旧稿を集成し若干の補訂を加えて出版することにしたのである。

[書き手]所 功(ところ いさお)
京都産業大学名誉教授、モラロジー研究所教授(研究主幹)、麗澤大学客員教授、皇學館大学特別招聘教授。著書に『天皇の人生儀礼』(小学館文庫)、『天皇の「まつりごと」』(NHK出版生活人新書)、『皇室事典』(角川学芸出版、編著)、『日本年号史大事典』(雄山閣、編著)など多数。
近代大礼関係の基本史料集成 / 所功
近代大礼関係の基本史料集成
  • 著者:所功
  • 出版社:国書刊行会
  • 装丁:単行本(685ページ)
  • 発売日:2018-08-31
  • ISBN-10:4336062668
  • ISBN-13:978-4336062666
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復古と革新の精神で形作られた近代の践祚式・即位礼・大嘗祭・改元に関する主要な史料・絵図や論考からなる、近代大礼のエッセンス。

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