「好古家」という言葉をご存知だろうか。骨董品や稀覯(きこう)本を蒐集したり、史跡や碑文を調べたりする趣味の持ち主を指す。わたしはこの言葉を、英国の怪奇小説家であるM・R・ジェイムズの『好古家の怪談集』という有名な短篇集で知った。
本書『アラバスターの手』は、そのM・R・ジェイムズの系譜に連なる一冊である。副題には「マンビー古書怪談集」とあるが、必ずしも古書をめぐる怪談ばかりが集められているわけではない。全14篇の短篇は、どれも奇怪な出来事が起こり、その原因となるいにしえの故事が語られるというパターンに則っていて、その意味で好古家の怪談なのである。
こうした渋い英国怪奇小説の伝統も、いまではすっかり途絶えてしまった。わたしを含めて、こういうものを好む読者はマイナーな趣味の持ち主であり、好古家と呼ばれる資格が充分にある。著者のA・N・L・マンビーは書誌学者であり、怪談集はこれ一冊しか遺していないマイナー作家だという点も、実に好ましい。
「いつの時代にも新しい」とはよく使われる褒め言葉だが、好古家の怪談は、さしずめ「いつの時代にも古い」と言えるだろうか。