書評

『プルーストの部屋〈上〉―『失われた時を求めて』を読む』(中央公論新社)

  • 2019/10/04
プルーストの部屋〈上〉―『失われた時を求めて』を読む / 海野 弘
プルーストの部屋〈上〉―『失われた時を求めて』を読む
  • 著者:海野 弘
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:文庫(321ページ)
  • 発売日:2002-01-01
  • ISBN:4122039622
内容紹介:
プルーストが『失われた時を求めて』で描き出した豊穣な作品世界は、観念的に読むだけでなく、より視角的に、具体的にとらえることによってさらなる魅力を増す。十九世紀末パリの街角、豪奢なアパルトマンの室内装飾、そして優美な衣裳を身につけ笑いさざめく女たちの姿がもの語るものは。
『失われた時を求めて』の読みにくさの大半は、その文体、思想内容、形式などからきているのだが、そこで触れられている風俗的な事象が我々にとってなじみがないということも多分に影響している。したがってこの部分を「視覚的に想像し、感じる」ことができるようになれば、いいかえれば「女たちの衣服のスタイルや文様、布地の質、家具の様式やディテイルが見えてくるほど、『失われた時を求めて』は、魅力を増してくる」にちがいない。ひとことで言えば、テクストを、それが成立した時代のコンテクスト(情況)に送り返してやろうというのが、本書の意図である。この姿勢自体はこれまでのプルースト研究があまりにテクストにこだわりすぎてコンテクストを無視してきたという点からみて、大きな意味を持つものである。だが、この方法が真に意味を持つためには、コンテクストに送り返してから、そのコンテクストを特権的な形で表象する記号として、もう一度テクストを読みとるという方向性がなければならない、つまり、テクストとコンテクストを弁証法の関係に置くという作業が必要なのである。著者もその点は心得ているようで、後半は風俗をはなれて再びテクストに向かっているようだが、すべてにわたってテクストとコンテクストの幸福な弁証法が成立しているとは言いがたい。とはいえ、この種のコンテクストへの送り返しの先駆的試みとしては十分に評価さるべきだろう。

【この書評が収録されている書籍】
歴史の風 書物の帆  / 鹿島 茂
歴史の風 書物の帆
  • 著者:鹿島 茂
  • 出版社:小学館
  • 装丁:文庫(368ページ)
  • 発売日:2009-06-05
  • ISBN:4094084010
内容紹介:
作家、仏文学者、大学教授と多彩な顔を持ち、稀代の古書コレクターとしても名高い著者による、「読むこと」への愛に満ちた書評集。全七章は「好奇心全開、文化史の競演」「至福の瞬間、伝記・自伝・旅行記」「パリのアウラ」他、各ジャンルごとに構成され、専門分野であるフランス関連書籍はもとより、歴史、哲学、文化など、多岐にわたる分野を自在に横断、読書の美味を味わい尽くす。圧倒的な知の埋蔵量を感じさせながらも、ユーモアあふれる達意の文章で綴られた読書人待望の一冊。文庫版特別企画として巻末にインタビュー「おたくの穴」を収録した。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

プルーストの部屋〈上〉―『失われた時を求めて』を読む / 海野 弘
プルーストの部屋〈上〉―『失われた時を求めて』を読む
  • 著者:海野 弘
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:文庫(321ページ)
  • 発売日:2002-01-01
  • ISBN:4122039622
内容紹介:
プルーストが『失われた時を求めて』で描き出した豊穣な作品世界は、観念的に読むだけでなく、より視角的に、具体的にとらえることによってさらなる魅力を増す。十九世紀末パリの街角、豪奢なアパルトマンの室内装飾、そして優美な衣裳を身につけ笑いさざめく女たちの姿がもの語るものは。

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初出メディア

すばる

すばる 1993年5月

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