書評

『パリ歴史文化図鑑:パリの記念建造物の秘密と不思議』(原書房)

  • 2019/04/29
パリ歴史文化図鑑:パリの記念建造物の秘密と不思議 / ドミニク・レスブロ
パリ歴史文化図鑑:パリの記念建造物の秘密と不思議
  • 著者:ドミニク・レスブロ
  • 翻訳:蔵持 不三也
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(296ページ)
  • 発売日:2019-03-20
  • ISBN-10:4562056312
  • ISBN-13:978-4562056316
内容紹介:
パリの歴史的な記念建造物に、新たな、そして視点をずらして光をあてることで、数多くの興味深いことが見えてくる。たとえば建築自体の独自性や用途の方向転換にかんする逸話など、750以上におよぶ豊富なカラー写真とともにたどる驚きと発見の旅!
ノートルダム大聖堂火災は衝撃だった。日本人にもなじみ深く感じられるこの建造物は、まさにパリの象徴だ。
本書『パリ歴史文化図鑑:パリの記念建造物の秘密と不思議』は、パリを代表する22の建造物の深奥を探求する本だ。
ノートルダムのほか、ルーヴル宮、パンテオン、エッフェル塔、凱旋門、シャイヨ宮……パリの名所には、一般にはほとんど知られていないような物語が山ほどある。パリを知り尽くした作家による極上の案内の前口上、「序文」をお届けする。

パリの深奥をめぐる旅へ

鈍色の海(メール・ド・ザンク)に浮かぶなじみの船々。パリの歴史的記念建造物は、街に立体感をもたらす。
威圧的で、荘厳もしくは崇高なそれらは、夢や歴史、そして記憶を紡ぎながら、街なみのなかにひときわきわだち、時を超えて存在しつづけている。これら記念建造物は、あらゆるアングルで写真におさめられ、しばしば表面的に感嘆される一方、パリ市民の日常的なランドマークとなっている。
とすれば、あらためてそれらを訪れてみる、つねに目の前にあるものを訪ねることがいったいなにになるというのだろうか。その歴史を知るためか。おそらくすべては語られ、書きつくされてきたのではないか。

にもかかわらず…
本書は、首都の規範的な建造物に、新たな、そして視点をずらして光をあてることで、読者の好奇心を刺激しようとするものである。
建物から建物へと飛びまわりながら、数多くの興味深い逸話、すなわち建築自体の独自性や用途の方向転換、残存物、形態論的な詳細などにかんする逸話をひろい集めている。

たとえば、それら建造物の建設資金の調達法にはしばしば驚くべきものがある。
ポン=ヌフ橋はワイン税、エトワール広場の凱旋門は小麦税、パンテオンとサン=シュルピス教会は宝くじ、さらにサクレ=クール大聖堂は一般市民からの寄付金に負っているのだ。
だが、予算はつねに超過した。当初の計画に割りあてられた資金は、旧採石場だらけの地下を補強するための工事に幾度となく文字通り飲みこまれた。

ひとたび予算が組まれれば、あとは工事をうまく進めるだけである。だが、ほとんどの場合、それは楽なことではなく、むしろ建築家の将来をあまり望ましくないものにする危険な企てだった。あるかあらぬか、建築家たちは数かぎりない辱めや批判、あるいは嘲笑を受けながら、しばしばみずからの作品が広く認められる前にこの世を去った。
事実、サント=ジュヌヴィエーヴ教会(パンテオン)のドームをめぐる論争の辛辣さに憔悴したジャック=ジェルマン・スフロは、建造物の完成を待たずに没している。サン=シュルピス教会の建築をになったジョヴァンニ・ニコロ・セルヴァンドーニは、自作の鐘楼が破壊され、広場の計画が頓挫するという苦渋を味わい、シャルル・ガルニエは、オペラ座の落成式に招待さえされなかった。

このような建造物の波乱にとんだ運命の物語には、具体的で確実、そしてはっきりと目にすることが可能な要素がくわわっている。
ルーヴル宮殿の工事現場の日時計やコンシェルジュリ(旧パリ高等法院付属監獄)のエロティックな中世の彫刻群、パレ=ロワイヤルにあるルイ16世時代の高層建築物、バスティーユ広場に刻まれた輝かしい、だがいつわりの痕跡、フランス学士院の透明な大時計、オベリスクにみられるブルターニュのヒキガエル、エトワール凱旋門の200個の「貝殻」、オペラ・ガルニエ宮のスライド式ついたて、シャイヨ宮の「間違い」などである。これらのことを知っている人はどれほどいるだろうか。
植物園に埋められたランドゥリュ事件の犠牲者の遺灰、リュクサンブール公園の最後の自動台秤、元老院の入れ子式の書見台、サン=シュルピス教会下の巨大な地下納骨堂などの存在を、はたしてだれが気づいているだろうか。

本書でとりあげたこれらさまざまな事例が読者の興味をかきたて、問題の場に直接おもむいて確かめる気持ちになってもらえれば幸いである。各章における記述の順序は、現地での散策に便利なよう、歩行の自然な流れに沿わせてある。モニュメントに近づくにつれて、関心は高まる。まず外部、続いて内部という具合にである。博物館や美術館としてもちいられているモニュメントにかんしていえば、本書はコレクション(コンテンツ)――非常に数奇な運命をたどった作品を除いて――ではなく、建物の建築的・遺産的な側面(宝物庫)を扱っている。

[書き手]ドミニク・レスブロ(ジャーナリスト・作家)/訳=蔵持不三也(早稲田大学名誉教授)
パリ歴史文化図鑑:パリの記念建造物の秘密と不思議 / ドミニク・レスブロ
パリ歴史文化図鑑:パリの記念建造物の秘密と不思議
  • 著者:ドミニク・レスブロ
  • 翻訳:蔵持 不三也
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(296ページ)
  • 発売日:2019-03-20
  • ISBN-10:4562056312
  • ISBN-13:978-4562056316
内容紹介:
パリの歴史的な記念建造物に、新たな、そして視点をずらして光をあてることで、数多くの興味深いことが見えてくる。たとえば建築自体の独自性や用途の方向転換にかんする逸話など、750以上におよぶ豊富なカラー写真とともにたどる驚きと発見の旅!

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