後書き

『マリー・アントワネットと5人の男:宮廷の裏側の権力闘争と王妃のお気に入りたち 上』(原書房)

  • 2020/11/17
マリー・アントワネットと5人の男:宮廷の裏側の権力闘争と王妃のお気に入りたち 上 / エマニュエル・ド・ヴァリクール
マリー・アントワネットと5人の男:宮廷の裏側の権力闘争と王妃のお気に入りたち 上
  • 著者:エマニュエル・ド・ヴァリクール
  • 翻訳:ダコスタ吉村花子
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(224ページ)
  • 発売日:2020-10-17
  • ISBN-10:4562057963
  • ISBN-13:978-4562057962
内容紹介:
フェルセンをはじめマリー・アントワネットの「お気に入り」だった五人。最新の研究成果から明らかになった宮廷の権力闘争、貴族像。
マリー・アントワネットの男性関係と言われればフェルセン伯爵を思い浮かべますよね。
けれども、王妃の「お気に入り」といわれた男性はほかにもいました。たとえば、ローザン公爵、ブザンヴァル男爵、ヴォードルイユ伯爵、エステルアジ伯爵……。
やっぱりマリー・アントワネットは恋多き女性? いえいえ、それほど簡単な話ではありません。
当時のヴェルサイユ宮で王族たちは絶対的な存在だったわけではないことが最新の研究からわかってきました。王族と宮廷貴族が入り乱れての嫉妬もあれば、権力闘争もありました。
そんななか、まだ若い王妃はどのようにしてまわりの人間と折り合い、あるいは張り合ったのでしょうか。
新刊『マリー・アントワネットと5人の男』(上下巻)は、王妃と宮廷人の交流に着目した、ヴェルサイユ宮のさまざまなドラマを追った本です。訳者あとがきを特別公開します。

男性宮廷人から見たマリー・アントワネットの姿

本書は『Les Favoris de la Reine』の邦訳であり、フランス王妃マリー・アントワネットのお気に入りといわれた五人の男性の軌跡を追った著作です。原題のfavoris(お気に入り)は女性名詞favoritesではなく主に男性を指すので、一瞬ドキリとしますが、王妃の隠れた愛人を暴露するような本ではありません。
王妃のお気に入りといえば、まずポリニャック夫人を思い浮かべる方は多いでしょうし、ランバル公妃や王妃の肖像画を残したヴィジェ=ルブラン夫人を挙げる方もいるでしょう。
フェルセン伯爵を除き、とかく女性ばかりが取り上げられる彼女の交友関係ですが、本書ではあえて男性に的を絞り、異性の「お気に入り」とどのような関係を築いていたかを取り上げています。

フェルセン伯爵はもちろんのこと、ローザン公爵、ブザンヴァル男爵など、彼女の伝記などで聞き覚えのある名前もあるかもしれませんが、それぞれがどういう人物だったかはあまり知られていません。
ローザン公爵は「美貌のローザン」とも謳われた美男で、名門貴族の出身。軍人としてもプレイボーイとしても大いに名をはせ、茶目っ気のある王妃の共犯者的存在となりますが、ふとしたことがきっかけで一瞬で寵愛を失ってしまいます。
ブザンヴァル男爵はスイス出身の年配男性で、一見朴訥ながらその実とても計算高い人物。けれども人好きのする性格で、ある意味本書の中では珍しく幸せな人生を送った人物でもあります。
ヴォードルイユ伯爵はかのポリニャック夫人の愛人で、要領のいい人間の典型。王妃の親友の愛人という地位と天賦の機知で、宮廷を牛耳ろうとしました。
フェルセン伯爵については説明の必要はないかもしれませんが、本書では従来の彼の自己献身的な男性像に疑問を投じています。
最後に登場するエステルアジ伯爵はもともとハンガリー貴族の出身ですが、貧しい幼少期を過ごし、苦労を重ねながら王妃のお気に入りの地位を手に入れました。本書の中では一番の栄達を遂げた人物でもあり、おそらく性格的にももっとも穏やかな性格でしょう。
口から生まれたような人物、傲慢な自信家、無類の女好き、愛妻家、怠惰、勇敢な軍人など、いずれも強烈な個性を備えた人物であり、一言で「宮廷人」とくくるには、出自も性格も歩んだ道も、そしてマリー・アントワネットとの関係も多様です。
これが本書の魅力の一つで、18世紀フランス宮廷について、王族を扱った書籍は多数あるのですが、宮廷人に焦点を当てたものは訳者の知る限り多くはありません。
もちろんここで取り上げる5人はほんの一部ですが、どのような環境に生まれ、育てられたのか、家族との関係、何を望み、どんな絶望を味わったのか、そしてどのような点が王妃に気に入られたのかなど、18世紀フランス宮廷に生きた人々の生活、思考回路、行動様式、道徳観念の一端をのぞかせてくれます。
と同時に、彼らの視点から見たマリー・アントワネット像も浮かび上がってきます。
意外に忘れられがちなのですが、王妃は何も宮廷人から一方的に崇められていたわけではなく、彼らと共存したり張り合ったり、取り立てたり反抗されたりと双方向の関係にありました。
誰とどのような関係を築いていたか、という斬新な視点から王妃を考察しつつ、実は宮廷人たちの実態の一面が浮き彫りになっている、というのがこの本の面白さです。

[書き手]ダコスタ吉村花子(翻訳家)
マリー・アントワネットと5人の男:宮廷の裏側の権力闘争と王妃のお気に入りたち 上 / エマニュエル・ド・ヴァリクール
マリー・アントワネットと5人の男:宮廷の裏側の権力闘争と王妃のお気に入りたち 上
  • 著者:エマニュエル・ド・ヴァリクール
  • 翻訳:ダコスタ吉村花子
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(224ページ)
  • 発売日:2020-10-17
  • ISBN-10:4562057963
  • ISBN-13:978-4562057962
内容紹介:
フェルセンをはじめマリー・アントワネットの「お気に入り」だった五人。最新の研究成果から明らかになった宮廷の権力闘争、貴族像。

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