書評
『幸福の経済学―人々を豊かにするものは何か』(日本経済新聞出版社)
幸せな農民、不満な成功者の謎
幸福は経済学者や心理学者がそれを考察対象とする以前から哲学的な思想のテーマだと著者は主張する。幸福をベンサム的な意味(快楽的な効用)とアリストテレス的な意味(意義深い人生を送る機)の両面から捉え、「幸せな農民と不満な成功者」という謎を解き明かしている。本書によると、1人当たりのGDP(国内総生産)が概(おおむ)ね3万ドルを超えると生活満足度との間に明確な関係はなくなり、「尊厳」がアリストテレス的な幸福概念と一致する。そして、「所得」は豊かさを担保するものとなる。豊かさとは、欲しい物がすぐ、手近な場所で手に入ることと考えれば、ゼロ金利・ゼロインフレ下の日本は、マクロ的には豊かさを、世界でも最高レベルで実現したことになる。
そうであれば、本書が提言する「主観的な幸福度」に特化すべきは日本だということになって、成長やマネーといった量的指標を追い求めてばかりで大丈夫かという読後感が強く残る。
朝日新聞 2013年4月21日
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