書評
『ユーロ消滅?――ドイツ化するヨーロッパへの警告』(岩波書店)
危機への岐路に立つメルケル
ユーロ危機を国家債務危機ととらえた経済学者は「資本の理解者」となって貧者に新自由主義を強いると著者は指摘する。債務危機ではなく、欧州危機なのであって「欧州が排外主義や暴力に回帰せずに、根本的な変化や多大な挑戦に対して解答を見いだせる」かどうかが問題の核心だという。著者は、現在の欧州はマキャヴェッリが経験した15~16世紀以上の危機に直面しているのであり、「革命前夜のような状況」と認識する。独首相メルケルを、『君主論』の戦略家になぞらえ「メルキァヴェッリ」と称し、これまでの「懐柔戦略としての躊躇(ちゅうちょ)」的な手法をたたえているが、「ドイツによるヨーロッパ」が全面的になると、限界に近づくと危惧し、それを避けるための「公平」「均衡」など四つの原則を提唱する。
現在の危機に対処するには、国民国家的世界観を変え、「ルールを守る小政治」から「ルールを変える大政治」へと転換する必要がある。欧州連合を進めていこうとする著者によれば、「慣れ親しんだルーティンを粉々にする例外の事態」と通常の事態が区別できない「リスク社会」において、秩序の転換には二つのシナリオがある。一つはヘーゲル的、もう一つはカール・シュミット的なそれだ。前者は民主主義が国家の枠を超えて生き残り、後者は独裁への道が待っている。
危機のさなかに、ドイツは意図せずしてヨーロッパの中心に躍り出た。カエサル、ナポレオン、ヒトラーらが強大な軍事力を以(もっ)てしてもなしえなかったことを、メルキァヴェッリが“壮大な社会実験”として行っている。翻って、我が国のそれといえば、ベースマネーを2倍に増やすことだという。なぜ日本は「近代の勝利の副次的作用としてのグローバルなリスク」に無頓着なのだろうか、この点を解明しないと日本は周回遅れのトップランナーになりさがるだろう。
朝日新聞 2013年5月12日
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