前書き

『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)

  • 2019/12/02
米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く / 遠藤 誉
米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く
  • 著者:遠藤 誉
  • 出版社:毎日新聞出版
  • 装丁:単行本(304ページ)
  • 発売日:2019-11-09
  • ISBN-10:4620326097
  • ISBN-13:978-4620326092
内容紹介:
激化する一方の米中対立。メディアでは報じられない真相と、東アジアが直面する激変の正体とは? 第一人者による衝撃のリポート。
「米中の合意間近」の報道以降、「米中貿易戦争は終結に向かう」期待から、株価上昇トレンドが続いています。一方、「香港人権・民主主義法案」にトランプ大統領が署名し、米中合意を危ぶむ声もあります。
そんな中、マスメディア・WEBで積極的に情報発信し、中国研究の第一人者と名高い遠藤誉氏は、「米中貿易戦争は終結せず、東アジアに『地殻変動』をもたらす」と予想しています。
「5G覇権争い」を軸に米中対立を分析した書籍『米中貿易戦争の裏側』から、その理由をお届けします。
 

「日韓対立」「香港」にも影響……「米中貿易戦争」はいつまで続くのか?

「GSOMIA問題」を操る「中露朝の巧みなシナリオ」の正体

トランプがありとあらゆる角度から中国を攻め落としていこうとしている中、暗く浮かび上がってきたのが日韓問題である。

本来なら徴用工問題という歴史認識と「国家間の条約を守りましょう」という問題であったはずの日韓問題が、突如「安全保障上信頼できないので、韓国をホワイト国から除外する」という措置へと移行し、中国を狂喜させてしまった。韓国にGSOMIA(ジーソミア General Secnrity of Military Information Agreement 軍事情報に関する包括的保全協定)まで放棄させるに至った背景には、「中露朝」3カ国の巧みなシナリオがある。

これまで何としても「日米韓」3カ国の安全保障上の連携を崩したいと思っていた中国は、日本の韓国に対するホワイト国除外により、東北アジアのパワーバランスにおいて、突如とてつもなく有利な立場に置かれるようになった。
日本と離間したのであるならば、韓国はどちら側と同盟を結んでいれば、地政学的に見て、より危険が少ないかを考えるだろうし、それを自国の利益のために選ぶ権限を、韓国も持っている。

周り中、陸続きで「中国、ロシア、北朝鮮」によって囲まれ、この3カ国から威嚇されていれば、当然のことながら安全保障上の脅威を受けないで済む方を選ぶだろう。
朴槿恵政権の時にTHAADを配備しただけでも、中国から激しい経済報復を受けるという経験をしたばかりだ。

一方トランプはロシアとの間に結ばれていたINF(中距離核戦力)全廃条約から離脱し、新しく自由に開発した中距離弾道ミサイルを中国を包囲する形で配備するための「国選び」をしていた。
日本を始めオーストラリアや韓国がその候補に挙がっているが、そのようなアメリカの要求に韓国が応じようものなら、中韓国交断絶も辞さないほどの勢いで、中国は水面下で韓国を威嚇していた。

もちろん韓国は中距離弾道ミサイルの配備を慌てて断っているが、GSOMIAという、北朝鮮や中国の軍事的動きを日本に通報する協定を延期することなど、この状況ではできない。

この歴史的地殻変動を起こす分岐点にあった韓国を「中露朝」側に追いやったのは日本である。正確には、もともとその傾向があった文在寅政権の背中を日本が押したと言えよう。中韓外相会談が終わったばかりの8月22日、韓国はGSOMIA破棄を宣言した。

こういった裏側の事情がはっきりと見えたのは、実はこの春にシンクタンク「中国問題グローバル研究所」を創設したからだ。日夜、ワシントンや北京とだけでなく、何よりも大きかったのはモスクワとメール交換を絶やさなかったことにより、中露の関係が鮮明に浮かび上がってきたのである。

シンクタンクの研究員である中国代表の孫啓明教授の専門がたまたま人民元を中心とした経済学であったことから、中国側から見た米中金融戦争の裏側も分析することができた。彼は「中国が所有する米国債」を「金融核弾(道ミサイル)」と称して分析している。

「香港デモ」の行方を左右する「香港最高裁判所の驚くべきメンバー構成」

中国は一方では国内において地方債務問題など多くの内憂を抱えており、香港や台湾問題に関しても中国共産党による一党支配体制を揺るがしかねない状況に追い込まれている。香港の逃亡犯条例改正案が提起された背景には、実は「香港最高裁判所の裁判官17人のうち15人は外国人である」という、驚くべき事態が厳然と横たわっているからだ。

それは香港返還の時の基本法で認められているので、なかなか改正できない。そのため北京政府は香港政府に命じて香港の民主活動家を北京が裁けるような仕組みを作ろうとしたのである。だからデモが激しくなった。アメリカは「しめた!」とばかりに香港の民主活動や台湾を応援し、香港台湾は米中覇権争いの最前線となっているとさえ言えよう。だというのに日本は「日中関係は正常な軌道に戻った」として、香港台湾問題を含めて中国政府を肯定する側についている。こんなことでいいのか。

[書き手]遠藤誉
米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く / 遠藤 誉
米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く
  • 著者:遠藤 誉
  • 出版社:毎日新聞出版
  • 装丁:単行本(304ページ)
  • 発売日:2019-11-09
  • ISBN-10:4620326097
  • ISBN-13:978-4620326092
内容紹介:
激化する一方の米中対立。メディアでは報じられない真相と、東アジアが直面する激変の正体とは? 第一人者による衝撃のリポート。

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