書評

『匂いのエロティシズム』(集英社)

  • 2022/02/15
匂いのエロティシズム / 鈴木 隆
匂いのエロティシズム
  • 著者:鈴木 隆
  • 出版社:集英社
  • 装丁:新書(240ページ)
  • 発売日:2002-02-15
  • ISBN-10:4087201295
  • ISBN-13:978-4087201291
内容紹介:
視覚、聴覚、味覚などに比べて、嗅覚については、論じられたり、教育されたりする機会はきわめて少ない。とりわけ近年、無臭であることが是とされて、消臭グッズが売れている…。こうした現象の… もっと読む
視覚、聴覚、味覚などに比べて、嗅覚については、論じられたり、教育されたりする機会はきわめて少ない。とりわけ近年、無臭であることが是とされて、消臭グッズが売れている…。こうした現象の背景にある匂いの抑圧と、本能の抑圧・性の抑圧とのつながりを探ると、意外にも匂いと性のただならぬ関係が浮かび上がり、人間特有の性の謎が見えてくる。本書では、媚薬、フェロモンからブルセラ、ボンデージ、果ては人類の性進化までをも「匂い」を軸に縦横に論じていき、本能から解き放たれた「人間的」な性-エロスに訴える匂いとしての「エロモン」仮説を提議する。

いい香りといやなニオイは紙一重

私はホステスのいる飲み屋に行かない。理由は三つある。一、金がない。二、ホステスがいると緊張する。三、彼女たちの化粧品や香水のニオイがいや。特に大きいのは三のニオイである。鼻粘膜が弱いのだろうか、電車などで整髪料のニオイをさせた男がいると、くしゃみが出て喉が痛くなってくる。『匂いのエロティシズム』は、匂いと性について論じた本。著者の鈴木隆は調香師でもある香料メーカー社員だ。

夏になると、脇の下にふきかける制汗消臭剤のCMが流れる。なんとなく「エッチだなあ」と思って眺めているのだが、よく考えると、あれは女子高生をはじめ世の若い女性たちに「あなたの脇の下は臭いぞ」と脅迫しているようなものである。神田うのと寛利夫が電車の中で息を吹きかけ合う口臭消臭剤のCMもあった。ウンコのニオイを消す飲み薬もある。なるほど、著者が「匂いの抑圧」と呼ぶ現象とはこういうことか。

それでは無臭が最良かというと、そうではない。人は香料の入った石鹸で身体を洗い、香料の入った化粧品を使い、香水をつける。自分のニオイは消しておきながら、高い金を払って別の匂いをつける、という奇妙な行動様式がここにある。

いい香りというのは、グッとくる匂い、エロティックな匂い。ところが、いやなニオイといい香りはほんの紙一重、それどころかルーツは同じかもしれない、ということが本書を読むとわかる。ワキガとムスクはよく似ている。しかし香水がエロスを刺激するのは、動物的なフェロモンというよりもイメージである。

性と匂いはあまりにも密接だからこそ、鼻や嘆覚は蔑視されてきた、と著者はいう。もっとも、本書第五章に登場する全身をゴムでできたスーツで覆うラバリストや、女性の使用済みパンツをコレクションするマニアの話になると、いやはやなんとも。いやなニオイといい香りの境界線は、個人の間でもまちまちなのだ。
匂いのエロティシズム / 鈴木 隆
匂いのエロティシズム
  • 著者:鈴木 隆
  • 出版社:集英社
  • 装丁:新書(240ページ)
  • 発売日:2002-02-15
  • ISBN-10:4087201295
  • ISBN-13:978-4087201291
内容紹介:
視覚、聴覚、味覚などに比べて、嗅覚については、論じられたり、教育されたりする機会はきわめて少ない。とりわけ近年、無臭であることが是とされて、消臭グッズが売れている…。こうした現象の… もっと読む
視覚、聴覚、味覚などに比べて、嗅覚については、論じられたり、教育されたりする機会はきわめて少ない。とりわけ近年、無臭であることが是とされて、消臭グッズが売れている…。こうした現象の背景にある匂いの抑圧と、本能の抑圧・性の抑圧とのつながりを探ると、意外にも匂いと性のただならぬ関係が浮かび上がり、人間特有の性の謎が見えてくる。本書では、媚薬、フェロモンからブルセラ、ボンデージ、果ては人類の性進化までをも「匂い」を軸に縦横に論じていき、本能から解き放たれた「人間的」な性-エロスに訴える匂いとしての「エロモン」仮説を提議する。

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初出メディア

週刊朝日

週刊朝日 2002年3月15日

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