書評

『おこちゃん』(小学館)

  • 2022/08/27
おこちゃん / 山本 容子
おこちゃん
  • 著者:山本 容子
  • 出版社:小学館
  • 装丁:大型本(1ページ)
  • 発売日:1996-02-09
  • ISBN-10:4097270753
  • ISBN-13:978-4097270751
内容紹介:
子どもは子どもらしくのびのびと育ってほしい…。そんな願いをこめて、版画家山本容子が自らの幼い頃のエピソードで描く、おこちゃん一家のなつかしい日々。

あこがれのいたずらっこ

「おーこちゃん、おーこちゃん、ありさんが、すきなのね~」と、童謡「ぞうさん」のフシで、息子が歌っている。何をしているのかと見れば、リビングにえんえんとビーズをまいて、細長い道をつくっている。

最近出会った『おこちゃん』の真似をしているらしい。『おこちゃん』は、銅版画家の山本容子さんの少女時代を絵本にしたもの。「ようこちゃん」がナマッて「おこちゃん」というわけだ。

自由奔放(ほんぽう)な「おこちゃん」が、さまざまなことをしでかしては、まわりの大人をびっくりさせる。チューリップが茶色く枯(か)れるとかわいそうだからと花をつんでしまったり、いちじくの木が寂しそうだからとパンツを飾ったり、下駄(げた)に釘を打ってハイヒールにしてみたり、桜貝で手品をしようとして飲みこんで喉(のど)につまらせたり、海の絵をピンク色で描いたり……。息子が真似をしていたのは、アリさんに砂糖のある台所を教えるために、砂糖の道をつくっている場面だ。

おこちゃんのすること、ひとつひとつに、息子はびっくりしながらも拍手喝采(かっさい)している。

「おこちゃん、すごいね」「おこちゃん、おかしいね」「おこちゃん、だいじょうぶかな」

子どもというのは、いたずらが大好き。でも、いたずらをするには、勇気と知恵がいる。おこちゃんみたいに痛快なことは、子どもといえども、なかなかできないのが現実だ。

だからこそ、絵本のなかで、いたずらっこに出会うと嬉しくなるのだろう。すっかり「おこちゃんファン」になった息子に、「おかあさんは、じつは、おこちゃんとお友だちなんだよ~」と言うと、「えっ、ほんと!?」と、ものすごくうらやましそうな顔をされた。

友だちといっても、少女時代の「おこちゃん」ではなく、素敵な大人の女性になった「おこちゃん」なのだが。この絵本をいただいたときの一筆箋(せん)には「絵草紙と漫画に憧れての創作本です。でも実話です」とあった。

十年以上前に手にしたときには、とにかく「おこちゃん」の天真爛漫(てんしんらんまん)ぶりに目を奪われた。そして一ページ一ページ、額に入れて飾りたいような、つまり画集としても楽しめる絵本だなあと思った。

けれど今、息子と読んでいて一番惹(ひ)かれるのは、繰り返し出てくる「びっくりひっくりかえったのよ」というフレーズだ。じいちゃんもばあちゃんもかあさんもとうさんも、みんな、「びっくりひっくりかえる」だけで、決しておこちゃんを叱らない。このひたすら受けとめる心の広さ。おこちゃんは、生き生きと、ますます創造の翼をひろげてゆく。

芸術家を育てようなんて、大それたことは思わないけれど、おこちゃんを見守った大人の態度には、大いに学ぶところがある。

外遊び終えたズボンを洗うとき立ちのぼりくる落葉の匂(にお)い

【この書評が収録されている書籍】
かーかん、はあい 子どもと本と私 / 俵万智
かーかん、はあい 子どもと本と私
  • 著者:俵万智
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:文庫(224ページ)
  • 発売日:2012-05-08
  • ISBN-10:4022646667
  • ISBN-13:978-4022646668
内容紹介:
6歳になった今も、息子は絵本を持って母のもとへやってくる――。子育てをする歌人が、子どものために選び、自身も心を揺り動かされた絵本48冊を紹介したエッセイ。母親世代にも懐かしい不朽の名… もっと読む
6歳になった今も、息子は絵本を持って母のもとへやってくる――。子育てをする歌人が、子どものために選び、自身も心を揺り動かされた絵本48冊を紹介したエッセイ。母親世代にも懐かしい不朽の名作から、図鑑、ことば遊び、シュールなものまで、幅広く選んでいる。成長に応じた絵本探しの参考として、また母と子のあたたかな交流を描いた本として楽しい一冊。単行本全2巻を1冊にまとめて文庫化。

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おこちゃん / 山本 容子
おこちゃん
  • 著者:山本 容子
  • 出版社:小学館
  • 装丁:大型本(1ページ)
  • 発売日:1996-02-09
  • ISBN-10:4097270753
  • ISBN-13:978-4097270751
内容紹介:
子どもは子どもらしくのびのびと育ってほしい…。そんな願いをこめて、版画家山本容子が自らの幼い頃のエピソードで描く、おこちゃん一家のなつかしい日々。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2007年6月27日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

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