書評
『さるとかに』(チャイルド本社)
本屋のおじさん大活躍
「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ~。いよいよかいてんですよ~」毎日「いよいよ開店」するのは、息子の本屋さんだ。畳の上に、絵本をきっちりびっしりタイルのように並べて、彼の扮する「本屋のおじさん」は待っている。
全部が何度も読んだことのある本だけに、この本屋のおじさんは、なかなか詳しい。
「『桃太郎』をください」では、ストレートすぎておもしろくないので、「あのー、鬼をやっつける話を探しているんですけど」と水をむけると「はいはい、これと、これね」と言って、『ももたろう』と『いっすんぼうし』を出してきた。そういえば、一寸法師も鬼をやっつける話だった。
「さんびきのナントカ……」を探してもらうと、今度は三冊。『さんびきのくま』と『さんびきのこぶた』と『三びきのやぎのがらがらどん』だ。
「今日は、悪いヤツが出てくる話が読みたいんですけど」と言うと、『さるとかに』。表紙からしてインパクトのある一冊だが、再話のほうも容赦なくなされていて、迫力がある。
近ごろの「昔話」の絵本は、子どもへの配慮からか、残酷なシーンが極力マイルドになっているものが多い。鬼退治の話だって、鬼が死ぬことは滅多になく、たいていは「ごめんなさい」とあやまって終わりだ。やっつける方法も、「こちょこちょ」なんていうのまであって、驚いたことがある。
もちろん、むやみに残酷である必要はないけれど、小手先のオブラート包みは、せっかくの昔話の魅力をそぐことも多いように思われる。その点、この『さるとかに』は、昔話のダイナミックさが伝わってきて、とてもいい。
初めて読んだときには、息子はちょっと引いていた。なにせ最後が「さるはぺしゃっとつぶれて、きゅっとしんでしまいましたとさ。めでたしめでたし」である。そのさるの所業も、そうとうひどい。
「悪いヤツっていうのは、このさるですか?それともかにですか?」と聞くと、「まあ、さるなんですけどね。……でもどっちもわるいようなはなしだと、わたしはおもうんですよねえ」と歯切れが悪い。さるの殺されかたが、よほど恐かったとみえる。なにもそこまで、という気持ちが消えないようだ。それはそれで、感じかたの一つだろう。
簡単なリクエストが、意外と通じないこともある。
「雨がふっている本は、ありますか?」
『あめのひのおるすばん』か『かみなりになったごろべえ』あたりを期待していたのだが、なかなか出てこない。
「あの、にたようなものでもいいですか」
本屋のおじさんが、もじもじしながら差し出した一冊。それは、表紙にペンギンの絵が描かれた『シャワー』という本だった。
【この書評が収録されている書籍】
朝日新聞 2007年7月25日
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