書評

『かんがえるカエルくん』(福音館書店)

  • 2020/01/25
かんがえるカエルくん / いわむら かずお
かんがえるカエルくん
  • 著者:いわむら かずお
  • 出版社:福音館書店
  • 装丁:単行本(56ページ)
  • 発売日:1996-04-25
  • ISBN-10:4834013944
  • ISBN-13:978-4834013948

カエルくんとかんがえる

自宅から歩いて数分のところに実家があるので、毎週のように帰省(?)している。息子は週末、おじいちゃんに将棋(しょうぎ)を教えてもらったり、おばあちゃんに本を読んでもらったりして過ごすことが多い。

  記憶にはなき父の顔 シャボン玉吹きつづけおり孫と競いて

おばあちゃん、すなわち私の母によると、息子が不思議なほど読んでほしがる一冊があるという。

『かんがえる力エルくん』というその本は、たしか二年以上前に、叔母からプレゼントされたものだ(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2008年)。

「なんだか、カエルくんが、ひたすら考えている本なのよ。特におもしろいできごとがあるわけでもないし、絵も単調で、大人から見ると何がいいんだかわからないんだけれど、とにかく、三回に一回は、この本を読んでって持ってくるわねえ」

それがもう二年も続いているのだから、何度読んでやったかわからないほどだと言う。

実家にある子どもの本の数が少ないというわけではない。むしろ、かなり多いほうだと思うのだが、その中で、なにゆえ『かんがえるカエルくん』なのか。興味深く思って、私も息子と一緒に、その本をめくってみた。

一見すると、ほとんど構図の変わらない四コマ漫画が並んでいる。その中でカエルくんが、「シジミのかお、どこにある?」とか「どこからが、そら?」とか、じーっと考えている。友だちのネズミくんも、つられて考えている。

「ミミズさんのかお」については、四コマが十二回。「そら」については、四コマが六回。そのあとも「ここもそら?」「そこはそらー?」……と、えんえんと空(そら)問題は続く。

ドラマチックなことは何も起こらないし、展開自体もまことにスローペースだ。だが、息子は、実に楽しそうに、カエルくんと一緒に「考えている」様子である。

カタツムリさんの目をつついてびっくりし、くちがあることを知って喜び、耳がないことを指摘してがっかりさせ、ショッカクというものを教えてもらい感心する。そのゆったりとした過程の一つ一つに、子どもは感情移入できるようだ。

思えば、世界は知らないことだらけ。子どもにとっては「トンボさんに顔があるかないか」ということも、この目で確かめてみなくては、わからない。

本の最後のほうでは「ぼくときみ」問題について、カエルくんは考える。「ぼくはぼくだけど……ネズミくんもぼくなんだ……」。そこから始まる長い長い思考の旅。「ネズミくんは、ぼくがいるから、きみなんだ」という気づきは、ある意味哲学的ですらある。

「どうして、このご本が好きなの?」と息子に聞いてみた。

「どうしてか、よくわからないんだけど、すき……よくわからないから、すき!」

わからないから、考える。それが、この本の魅力のようだ。

【この書評が収録されている書籍】
かーかん、はあい 子どもと本と私 / 俵万智
かーかん、はあい 子どもと本と私
  • 著者:俵万智
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:文庫(224ページ)
  • 発売日:2012-05-08
  • ISBN-10:4022646667
  • ISBN-13:978-4022646668
内容紹介:
6歳になった今も、息子は絵本を持って母のもとへやってくる――。子育てをする歌人が、子どものために選び、自身も心を揺り動かされた絵本48冊を紹介したエッセイ。母親世代にも懐かしい不朽の名作から、図鑑、ことば遊び、シュールなものまで、幅広く選んでいる。成長に応じた絵本探しの参考として、また母と子のあたたかな交流を描いた本として楽しい一冊。単行本全2巻を1冊にまとめて文庫化。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

かんがえるカエルくん / いわむら かずお
かんがえるカエルくん
  • 著者:いわむら かずお
  • 出版社:福音館書店
  • 装丁:単行本(56ページ)
  • 発売日:1996-04-25
  • ISBN-10:4834013944
  • ISBN-13:978-4834013948

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2008年09月24日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

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