「革命」「進歩」の近代に幕引き
本書によれば、21世紀は1979年から始まった。この年、五つの出来事(物語)が17〜20世紀を規定してきた近代に挑戦したのだった。それは、中国文化大革命を終わらせた前年の「第十一期三中全会」を受け、(1)79年から始まったトウ小平の「社会主義的近代化」(経済改革)であり、(2)1月のイスラム革命、(3)5月サッチャーが英国首相に就任したこと、(4)6月ローマ法王ヨハネ・パウロ二世の母国ポーランド訪問、(5)クリスマスに開始されたソ連のアフガン侵攻、の五つだ。
これらは一見偶然が重なっただけのようにみえるが、本書はそうではないという。
(1)と(4)、(5)は仏革命が生み出した社会主義を終わらせ、(2)は宗教が頂点にたつ中世を終わらせた近代理念を否定、宗教の政治化を招来させた。一方、(3)は仏革命が生み出したリベラル派を新保守主義者が葬った。これら五つはすべて反革命なのである。
イスラム革命はアフガンに影響を及ぼし、ポーランドの「連帯」を誘発し、ソ連を解体させた。同じ「革命」でも「世俗の近代化推進者による成果」だった仏、露の革命とは正反対である。他の出来事も近代化の「成果」に対する「反逆」、「進歩」のもつ「傲慢(ごうまん)」性を拒絶した人々の物語だと筆者は読み解く。
21世紀の始まりとともに進歩を最高理念に頂く近代が終わったのである。欧州で中世が終わったときも偶然が重なったかのように重大事件が東西で起きた。東で1453年にビザンチン帝国が崩壊し、西では英仏100年戦争を終わらせたジャンヌ・ダルクの異端告発の無効裁判が1456年に行われ、彼女の「魔女」幻想への決着をつけた。
既存システムが耐えられないほどにこれまでの矛盾が全地球規模で蓄積されると、ある時一斉にあちこちでそのエネルギーが爆発する。それが「歴史の危機」だ。歴史はSF小説より面白い。