「変化=進歩」の驚くべき楽観性
書名のとおり、本書の中心テーマは宗教(神)と資本主義(黄金)の関係にある。著者はかつて外交問題評議会(CFR)の上級研究員だった。CFRにはキッシンジャーら米外交政策の大物が名を連ねており、米保守本流の考え方を窺(うかが)い知ることができる。原著は2007年に出され、リーマン・ショック(08年)や、オバマ米大統領の「米国は世界の警察官ではない」発言(13年)の前であるという点を割り引いても、米指導層が世界および米国の将来に関して、いかに楽観的であるかに驚かざるを得ない。本書は次のように締めくくられる。アメリカは「奇異なる標語の旗を手にして突進を続けていくことだろう。旗に綴(つづ)られし言葉はただ一言、『エクセルショー!』」。
1841年、H・W・ロングフェローの詩にうたわれた「さらなる高みへ(エクセルショー)!」は、米国読者に熱い共感を生んだ。著者はいう。詩に描かれた英雄にとって「普通の暮らしを追い求めることは、(略)不道徳(ヴィシャス)な欲望なのである」と。
この高み志向が「なぜアングロ—サクソン人がかくも素早く、かくも徹底的に資本主義を取り入れたのか」を解きほぐす。
資本主義には「変化と発展が不可避」である。本書によると、資本主義台頭後、歴史は「循環の記録であることをやめ、西へ西へと進み続ける旅とそれを阻む壁の破壊の物語に変わった」。また、哲学者ベルクソンの「開かれた社会」「閉ざされた社会」を論じ、蜜蜂の「閉ざされた」社会には「必ず終わりがくる」が、「変化と成長」を取り入れ「開かれた」人間社会は「閉ざされた社会」より進んでいると断言する。
16世紀に起こった宗教改革は「進歩的変革」という概念を誕生させ、変化は「教会は日々新たに改革されなければならない」という呼びかけに対する応答、あるいは進歩と理解され、それ自体が崇拝の対象となったと著者はいう。
世界の変化に応じて変化した信者は「神に近づく」。経済においても精神面においても「変化=進歩」教は、アングロ—サクソン世界の頂点に立つ。変化が「永続的で、必要な、さらには神聖視されるべき要素」として捉えられたことで、己の過去を捨て、神の示す未来に従えという「アブラハムの物語」と「資本主義の物語」が一体化したのである。
クリントンの「変化」とオバマのそれとは真逆の関係にあるが、いずれも「もっと速く駆け上がれ」と変化を強要した。その結果がサマーズの「長期停滞論」の原因なのではと評者は思う。変化を拒むことができない社会は本当に自由で健全な社会なのか本書を読んで大いなる疑問が湧いてきた。