書評

『イスラエルとパレスチナ──ユダヤ教は植民地支配を拒絶する』(岩波書店)

  • 2024/12/23
イスラエルとパレスチナ──ユダヤ教は植民地支配を拒絶する / ヤコヴ・ラブキン
イスラエルとパレスチナ──ユダヤ教は植民地支配を拒絶する
  • 著者:ヤコヴ・ラブキン
  • 翻訳:鵜飼 哲
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(88ページ)
  • 発売日:2024-10-08
  • ISBN-10:4002710998
  • ISBN-13:978-4002710990
内容紹介:
イスラエルとはどのような国家なのか。パレスチナ自治区でジェノサイドを続けているのは「ユダヤ人国家」を僭称する植民地主義のシオニストたちである。暴力を禁じるユダヤ教の伝統にとってイ… もっと読む
イスラエルとはどのような国家なのか。パレスチナ自治区でジェノサイドを続けているのは「ユダヤ人国家」を僭称する植民地主義のシオニストたちである。暴力を禁じるユダヤ教の伝統にとってイスラエルは、救済の途上の障害以外の何ものでもない―。在カナダの碩学のユダヤ教徒による渾身の批判。

目次
シオニストによる植民地化前夜のパレスチナ
パレスチナ人に対するシオニスト国家の態度
ユダヤ教の拒絶と新しい人間の形成
ヨーロッパの遺産―暴力と無力
一〇月七日の攻撃に至るまで
復讐とイスラエルの存続
ダビデとゴリアテ、そしてサムソン―地獄に堕ちるのか?

シオニズムとユダヤ教を区別する

ユダヤ教とシオニズムはまるで別もの。むしろ正反対だ。--この重大な前提から議論が始まる。イスラエル建国の裏側やパレスチナ紛争の実態、ガザ地区はなぜ徹底的に破壊されたのか。一連の疑問がするすると解けていく。

著者は歴史学が専門。一九四五年にソ連で生まれ七三年に出国、イスラエルで数カ月を過ごしカナダに移住した。ユダヤ教徒の立場でこの紛争を厳しく見つめる。

シオニズムとは何か。シオンはエルサレムの別名。同地に帰還しユダヤ人国家を建てようというナショナリズムだ。ユダヤ教を軽蔑する無神論者や社会主義者の運動で当初少数派、浮いていた。

ユダヤ教はモーセ以来の伝統ある信仰。エルサレム帰還を祈るがそれは神が許可したとき。≪群れをなし、力ずくで帰ってきてはならない≫がタルムードの教えだ。パレスチナにもユダヤ人はいた。アラビア語を話しムスリムと共存していた。そこへシオニストがやって来て、ユダヤ人に指図し、パレスチナ人と敵対し弾圧した。

シオニズムが現れたのは一九世紀末。ポグロム(ユダヤ人村の襲撃)がロシア東欧で荒れ狂った。対抗して、宗教の代わりに民族をアイデンティティにする運動が起こった。ヘブライ語を国語にし、パレスチナに移住しよう。現実離れした主張だったが第二次世界大戦後、西側諸国の支持をえた。一九四八年には一方的にイスラエル建国を宣言、現在にいたる。

シオニストは力でユダヤ人国家の独立を守ろうとする。周囲のアラブ人国家はみな敵。パレスチナ人(アラブ系)も敵。イスラエルは彼らの土地を奪い、入植し、あえて国境を定めず、パレスチナ全域を支配しようとする。イスラエルへの怨念が蓄積していく。

昨年10月7日、ハマスがイスラエルを攻撃し、民間人を殺害、人質にした。憎悪に根ざした犯行だ。イスラエル軍は拠点のガザに反撃、病院や学校を爆撃し、市街地を破壊した。数万人が犠牲となり、二〇〇万住民が苦しんでいる。

著者によればイスラエルは、遅れて来た植民地主義国家だ。パレスチナ人(イスラエルに言わせるとアラブ人)を差別する。元は非宗教的だったが、今はユダヤ人国家を「信仰」せよと国民に強制している。極右政党を含む連立政権は強硬で、パレスチナ自治政府の力を殺ぐため、反対派のハマスに肩入れしてきた過去がある。

イスラエルとパレスチナの二国家共存が、国連の提案だった。イスラエルはパレスチナ国家を認めない。西側諸国はイスラエル独立を支持。著者によれば、イスラエルのやり方はヒトラーやプーチンとそっくりだ。それを非難しない西側は二重規準ではないか。

その昔ユダヤ思想家マイモニデスは、イスラム教は≪厳密な意味の一神教≫だから、モスクに立ち入ってよいとした。アラビア語で本を書いたユダヤ人も多かった。ユダヤ教はイスラム教と融和的。ならばシオニズムさえ片づけば、パレスチナでユダヤ人とアラブ人が共存するのは夢でないのだ。

イスラエルを非難するのは反ユダヤ主義だという。イスラエルは世界のユダヤ人の代表だという。イスラエルの宣伝だ。シオニズム(イスラエル)とユダヤ人をまず区別しよう。ユダヤ人とパレスチナ人が和解できると信じよう。じっくり読む価値のある本だ。
イスラエルとパレスチナ──ユダヤ教は植民地支配を拒絶する / ヤコヴ・ラブキン
イスラエルとパレスチナ──ユダヤ教は植民地支配を拒絶する
  • 著者:ヤコヴ・ラブキン
  • 翻訳:鵜飼 哲
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(88ページ)
  • 発売日:2024-10-08
  • ISBN-10:4002710998
  • ISBN-13:978-4002710990
内容紹介:
イスラエルとはどのような国家なのか。パレスチナ自治区でジェノサイドを続けているのは「ユダヤ人国家」を僭称する植民地主義のシオニストたちである。暴力を禁じるユダヤ教の伝統にとってイ… もっと読む
イスラエルとはどのような国家なのか。パレスチナ自治区でジェノサイドを続けているのは「ユダヤ人国家」を僭称する植民地主義のシオニストたちである。暴力を禁じるユダヤ教の伝統にとってイスラエルは、救済の途上の障害以外の何ものでもない―。在カナダの碩学のユダヤ教徒による渾身の批判。

目次
シオニストによる植民地化前夜のパレスチナ
パレスチナ人に対するシオニスト国家の態度
ユダヤ教の拒絶と新しい人間の形成
ヨーロッパの遺産―暴力と無力
一〇月七日の攻撃に至るまで
復讐とイスラエルの存続
ダビデとゴリアテ、そしてサムソン―地獄に堕ちるのか?

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2024年12月14日

毎日新聞のニュース・情報サイト。事件や話題、経済や政治のニュース、スポーツや芸能、映画などのエンターテインメントの最新ニュースを掲載しています。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
橋爪 大三郎の書評/解説/選評
ページトップへ