書評
『記者と国家 西山太吉の遺言』(岩波書店)
権力の乱用に対する"遺言"
ある国家機密に対し、「『国は守る』、『新聞は攻める』で、この間のバランスが微妙に成り立ってはじめて、民主主義は機能する」。もし、「攻める側の代表が守る側の代表を積極的に応援」したら、国は攻めも守りも自在に操れるようになる。沖縄返還目前の一九七二年、米軍用地の原状回復補修費にからむ密約をつかんだものの、機密漏洩教唆容疑で逮捕された政治記者西山太吉。事件の流れを振り返りながら、今の社会で放置されている権力の乱用に対し、「遺言」をぶつける。
西山の警鐘は、基本的なことばかりだ。安倍首相による集団的自衛権行使に関する憲法解釈の変更は、民主主義社会ではクーデター的な措置ではないか。沖縄県内で基地を移転しても、政府の言う基地負担の軽減にならないのではないか。
戦後政治の変遷に自身の体感を混ぜ込みつつ、鋭い言葉を現代社会に投げる。密約、虚偽表示、改竄を結果的に見過ごす姿勢に、立ち返るべき原点を指し示す。
朝日新聞 2019年10月5日
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