後書き
『スタンフォード式 人生デザイン講座』(早川書房)
就職、転職、結婚、セカンドキャリア……。人生の岐路に立ったとき、決断をくだすことができなかったり、これまでの選択を後悔したりしてしまうことは必ずある。
そのとき、どう考え、どのように行動すべきかを実践的に示し、米スタンフォード大学からハーバード、MITなどの教育機関、シリコンバレーの企業へと広がっている「人生デザイン講座」。その一端をご紹介する。
誰もがそんな疑問を抱えながら生きている。
本書『スタンフォード式 人生デザイン講座』(原題: Designing Your Life: How to Build a Well-Lived, Joyful Life)は、デザイナーの発想法を用いて自分自身の人生をデザインしていくスタンフォード大学の人気講座「Designing Your Life」で著者たちが教えている方法論や演習がぎっしりとつまっている一冊だ。
本書の最大の特長は、なんといっても「人生デザイン」という名のとおり、人生やキャリアの設計に「デザイン思考」の考え方をとり入れている点だろう。すべての人々に画一的なアドバイスをしがちなふつうの自己啓発書とはちがって、本書では読者一人ひとりが実際に頭、手、そして体を動かしながら、自分に合った人生を「デザイン」していくことを目的にしている。
数学の問題を解いたり高速な列車を設計したりする場合には、究極の正解を突きつめるエンジニアの視点(収束的思考)が必要になるが、商品のデザインや社会問題の解消など、さまざまな答えがありうる複雑な問題を解決する場合には、それとは逆のデザイナーの視点(発散的思考)が必要になってくる。目の前の問題を別の視点からとらえなおし、いろいろなアイデアを出し、実際にプロトタイプ(試作品)をつくりながら、試行錯誤を繰り返していく──こうしたデザイン思考のプロセスは、唯一の正解がない「人生」という問題と向き合うには打ってつけの考え方といえる。
この唯一の正解がないという点は、本書の根底にある考え方のひとつではないかと思う。唯一の正解がないからこそ、自由に発想を広げられるし、試行錯誤を繰り返せる。そして、ひとつを選んだあとも、不正解を選んだという後悔の念に必要以上にとらわれずにすむ。この楽観的な視点は、きっと人生をデザインするうえで大切な要素だ。絵の描き方に正解がないように、人生の描き方にも正解はない。「最高の自分は何通りもある」という著者の言葉には、私自身も訳していて勇気を与えられた。
さて、そんな講座を考案したふたりの著者について、少し紹介しておきたい。
ビル・バーネットはスタンフォード大学でプロダクト・デザインを専攻後、数々の新興企業や大企業で働いた経験を持つ。アップル社に七年間勤務し、賞を受賞したラップトップや蝶番のデザインにかかわった。現在はスタンフォード大学デザイン・プログラムのエグゼクティブ・ディレクターを務めている。
デイヴ・エヴァンスもスタンフォード大学を卒業後、アップルで初のマウスの開発にかかわったのち、エレクトロニック・アーツ社を創設し、多くの経営者たちにコンサルティングや助言を提供。その経験を活かして、カリフォルニア大学バークレー校では、八年間計一四学期にわたり、「天職の見つけ方」というプログラムを担当した。
そんなふたりがスタンフォード大学にライフデザイン・ラボを共同で創設し、「Designing Your Life」プログラムを教えることになったきっかけは、二〇〇七年、エヴァンスがバーネットと昼食をとっているときに提案したなにげないアイデアだった。彼は卒業後の進路が明確ではなく、職業選択で苦労しがちなスタンフォード大学のデザイン課程の学生たちのために、キャリア設計のアドバイスを提供したいと考えていた。
ふたりはすぐさま意気投合し、さっそく夏期に二日がかりの夜間ワークショップを開催。一日目、ワークショップは盛況のまま進んだ。二日目、ワークショップは止められなくなった。学生たちは夜遅くまで演習にのめりこんだ。終了予定時刻が過ぎ、ふたりがそろそろワークショップを切り上げようとしても、学生たちはいっこうに話し合いをやめようとしなかった。「もう少しだけ。だって、こんなことについて語れる場所なんてほかにないですから」
人生や仕事について真剣に語り合える場所がなかなかないというのは、どの国の人々にも共通する悩みなのかもしれない。
こうして生まれた「Designing Your Life」プログラムはたちまち学生たちの人気を博し、キャンパス内で一、二を争うほどの人気選択講座となった。これまでに数千人のスタンフォード大学の学生がこの講座を受講してきたほか、現在ではそれ以外にも門戸を開け、すべての人々を対象とした同名のワークショップを開催している(http://designingyour.life/)。
この人気のワークショップを擬似的に体験できるのが本書だ。
ぜひみなさんも、本書をただ読むだけではなく、章末のワークシートに書きこみながら、頭、手、体を総動員して演習を実践してみてほしい。
「実践する」ことはデザイン思考に欠かせない一部だからだ。ワークシートは早川書房のサイト(www.hayakawa-online.co.jp/designingyourlife/)からもダウンロードすることができる。
そして、著者が勧めるように、お互いにライフデザインを発表し合える仲間(ライフデザイン・チーム)が見つかればいっそう効果的だ。日本でも「デザイン・ユア・ライフ公式ワークショップ」の名称で、著者公認講師による講座が2020年に開催予定。今後も、実践が広がっていくことを願っている。
[書き手]千葉敏生(翻訳家)
そのとき、どう考え、どのように行動すべきかを実践的に示し、米スタンフォード大学からハーバード、MITなどの教育機関、シリコンバレーの企業へと広がっている「人生デザイン講座」。その一端をご紹介する。
世界100大学が採用する、一人一人に合った人生のデザイン術
どうして人生がうまくいかないのだろう? 今の仕事をつづけるべきか? これからの人生をどう生きよう?誰もがそんな疑問を抱えながら生きている。
本書『スタンフォード式 人生デザイン講座』(原題: Designing Your Life: How to Build a Well-Lived, Joyful Life)は、デザイナーの発想法を用いて自分自身の人生をデザインしていくスタンフォード大学の人気講座「Designing Your Life」で著者たちが教えている方法論や演習がぎっしりとつまっている一冊だ。
本書の最大の特長は、なんといっても「人生デザイン」という名のとおり、人生やキャリアの設計に「デザイン思考」の考え方をとり入れている点だろう。すべての人々に画一的なアドバイスをしがちなふつうの自己啓発書とはちがって、本書では読者一人ひとりが実際に頭、手、そして体を動かしながら、自分に合った人生を「デザイン」していくことを目的にしている。
数学の問題を解いたり高速な列車を設計したりする場合には、究極の正解を突きつめるエンジニアの視点(収束的思考)が必要になるが、商品のデザインや社会問題の解消など、さまざまな答えがありうる複雑な問題を解決する場合には、それとは逆のデザイナーの視点(発散的思考)が必要になってくる。目の前の問題を別の視点からとらえなおし、いろいろなアイデアを出し、実際にプロトタイプ(試作品)をつくりながら、試行錯誤を繰り返していく──こうしたデザイン思考のプロセスは、唯一の正解がない「人生」という問題と向き合うには打ってつけの考え方といえる。
この唯一の正解がないという点は、本書の根底にある考え方のひとつではないかと思う。唯一の正解がないからこそ、自由に発想を広げられるし、試行錯誤を繰り返せる。そして、ひとつを選んだあとも、不正解を選んだという後悔の念に必要以上にとらわれずにすむ。この楽観的な視点は、きっと人生をデザインするうえで大切な要素だ。絵の描き方に正解がないように、人生の描き方にも正解はない。「最高の自分は何通りもある」という著者の言葉には、私自身も訳していて勇気を与えられた。
さて、そんな講座を考案したふたりの著者について、少し紹介しておきたい。
ビル・バーネットはスタンフォード大学でプロダクト・デザインを専攻後、数々の新興企業や大企業で働いた経験を持つ。アップル社に七年間勤務し、賞を受賞したラップトップや蝶番のデザインにかかわった。現在はスタンフォード大学デザイン・プログラムのエグゼクティブ・ディレクターを務めている。
デイヴ・エヴァンスもスタンフォード大学を卒業後、アップルで初のマウスの開発にかかわったのち、エレクトロニック・アーツ社を創設し、多くの経営者たちにコンサルティングや助言を提供。その経験を活かして、カリフォルニア大学バークレー校では、八年間計一四学期にわたり、「天職の見つけ方」というプログラムを担当した。
そんなふたりがスタンフォード大学にライフデザイン・ラボを共同で創設し、「Designing Your Life」プログラムを教えることになったきっかけは、二〇〇七年、エヴァンスがバーネットと昼食をとっているときに提案したなにげないアイデアだった。彼は卒業後の進路が明確ではなく、職業選択で苦労しがちなスタンフォード大学のデザイン課程の学生たちのために、キャリア設計のアドバイスを提供したいと考えていた。
ふたりはすぐさま意気投合し、さっそく夏期に二日がかりの夜間ワークショップを開催。一日目、ワークショップは盛況のまま進んだ。二日目、ワークショップは止められなくなった。学生たちは夜遅くまで演習にのめりこんだ。終了予定時刻が過ぎ、ふたりがそろそろワークショップを切り上げようとしても、学生たちはいっこうに話し合いをやめようとしなかった。「もう少しだけ。だって、こんなことについて語れる場所なんてほかにないですから」
人生や仕事について真剣に語り合える場所がなかなかないというのは、どの国の人々にも共通する悩みなのかもしれない。
こうして生まれた「Designing Your Life」プログラムはたちまち学生たちの人気を博し、キャンパス内で一、二を争うほどの人気選択講座となった。これまでに数千人のスタンフォード大学の学生がこの講座を受講してきたほか、現在ではそれ以外にも門戸を開け、すべての人々を対象とした同名のワークショップを開催している(http://designingyour.life/)。
この人気のワークショップを擬似的に体験できるのが本書だ。
ぜひみなさんも、本書をただ読むだけではなく、章末のワークシートに書きこみながら、頭、手、体を総動員して演習を実践してみてほしい。
「実践する」ことはデザイン思考に欠かせない一部だからだ。ワークシートは早川書房のサイト(www.hayakawa-online.co.jp/designingyourlife/)からもダウンロードすることができる。
そして、著者が勧めるように、お互いにライフデザインを発表し合える仲間(ライフデザイン・チーム)が見つかればいっそう効果的だ。日本でも「デザイン・ユア・ライフ公式ワークショップ」の名称で、著者公認講師による講座が2020年に開催予定。今後も、実践が広がっていくことを願っている。
[書き手]千葉敏生(翻訳家)