インターネットの「2ちゃんねる」といえば、匿名をいいことに、誹謗中傷・罵詈雑言・嘘でまかせがあふれる掲示板だった。パンドラの箱を開けちゃったというか、人間の本性は邪悪なりということを白日の下にさらした。だからその管理人である「ひろゆき」こと西村博之には、ネットの負の側面を象徴するようなイメージがあった。どんなに批判されても「蛙の面に水」を地で行くような、しかも「ふてぶてしい」というより飄々としたたたずまいは、なんだか人を食っている。
ところが昨今は各方面で引っ張りだこ。ポータルサイトのニュース欄で名前を見かけない日はない。いまや橋下徹やホリエモン(堀江貴文)と並ぶ論客である。
『1%の努力』(ダイヤモンド社・1650円)はそんなひろゆきによる人生指南書であり自己啓発書。昨年3月に刊行されてから売れ続けている。想定読者は若者か。ひろゆきは混迷する時代のロールモデルなのである(ALLREVIEWS事務局注:本書評執筆年は2021年)。
この本の特徴は、ひろゆきが東京都北区赤羽の団地で育ったその生い立ちから、パリでのんきに余生を送る現在までを、七つのエピソードを軸に語っていること。そして、意外なことに(と言っては著者に失礼だが)、書かれていることがけっこう真っ当であること。少なくとも「2ちゃんねる」の醸し出すアングラでダークな感じじゃない。
たとえばエピソード2は人生における優先順位の話。自分にとって一番大切なものは何かをじっくり考え、それを優先して生きよ、と言う。ぼくも賛成だ。世の中、お金とか世間体とか会社の都合とかオリンピックとか、クソくだらないことを優先させられる場面が大杉(汗)。もっとも、ひろゆきの場合、最優先するものは「睡眠」というところがひと味違うか。
アルバイトを全力で楽しんだこととか、海外を旅して多くの親切な人に出会ったことなど、「いい話」も多い。
働かないアリになって、楽しく生きようぜ、とひろゆきは言う。ぼくもやりたいことだけやろう。