書評

『ぶたのぶたじろうさんは、あらしのうみにおそわれました。』(クレヨンハウス)

  • 2020/01/10
ぶたのぶたじろうさんは、あらしのうみにおそわれました。 / 内田麟太郎
ぶたのぶたじろうさんは、あらしのうみにおそわれました。
  • 著者:内田麟太郎
  • 出版社:クレヨンハウス
  • 装丁:単行本(80ページ)
  • 発売日:2009-07-23
  • ISBN-10:4861011523
  • ISBN-13:978-4861011528

「みちくさ」って楽しいね

眠る前に、お話を一つ二つ読むのが息子との習慣だ(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2009年)。寝ついたら、そーっと起きだし、一つ二つ仕事を片づけるのだが、それが三つ四つ五つと溜まっていると、こちらの気持ちにも余裕がなくなってくる。つい先日も、短いお話をさっさと読んで、はいおしまい、と電気を消そうとしたら、息子は不満げな顔で、こう言った。「おかあさん、いまのは時間かせぎでしょ」

日本語の使い方としては、ちょっとヘンだが、要するに、こちらのおざなりな態度を責めているらしい。

「なによ、そういうのを言いがかりっていうんだから」――早く寝てほしい時に限ってもう、めんどくさいなあと、つい声を荒らげてしまう。

「たくみんは、ちがうお話がよかった」

「なに? じゃあ、なにがよかったか言ってよ」

「……ぶたのぶたじろうさん」

ぶたのぶたじろうさんは、最近お気に入りのシリーズだ。それにしても、なんて肩の力が抜けるタイトルだろうか。なごむ。タイトルだけで、なごむ。

じゃあ、ひとつだけね、とこちらも態度を軟化させ、息子のリクエストで『ぶたのぶたじろうさんは、あらしのうみにおそわれました。』所収の「まけずぎらいのヒョウ」を読むことにした。

のんのこやまに、のんびり向かうぶたじろうさん。まけずぎらいのヒョウは、早く着くことだけを考え、ぶたじろうさんを追い越してゆく。頂上で得意げに待っていたヒョウに、ぶたじろうさんは「みちくさ」の楽しさを語る……。

ユーモアと詩的感覚に満ちた文章を、ゆっくり声に出して読んでいると、先ほどまでのせかせかした気分が、すーっと消えていった。なんだかぶたじろうさんに「目的地まで、急げばいいってもんじゃないですよ、おかあさん」と、囁かれているような気さえする。まさか息子も、それを狙って選んだわけではないだろうが、心にしみる一話だった。

ぶたじろうさんの魅力は、この「のんびり感」だけではない。時にはシュールな話も展開するのだが、それをすとんと伝えてしまうマジックのような日本語が、おもしろくてたまらない。

「そのときです。ぶたじろうさんがおしりから、かわいいうたをながしたのは」

「きがつくと……、ぶたのぶたじろうさんは、どんばらぶたのすけになっていました」

おならや食べ過ぎが、こんな表現で、さらっと書かれている。スズキコージさんの絵も素敵だ。お話の不思議さや怖さや温もりを、無限に閉じ込めて、見飽きることがない。

【この書評が収録されている書籍】
かーかん、はあい 子どもと本と私 / 俵万智
かーかん、はあい 子どもと本と私
  • 著者:俵万智
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:文庫(224ページ)
  • 発売日:2012-05-08
  • ISBN-10:4022646667
  • ISBN-13:978-4022646668
内容紹介:
6歳になった今も、息子は絵本を持って母のもとへやってくる――。子育てをする歌人が、子どものために選び、自身も心を揺り動かされた絵本48冊を紹介したエッセイ。母親世代にも懐かしい不朽の名作から、図鑑、ことば遊び、シュールなものまで、幅広く選んでいる。成長に応じた絵本探しの参考として、また母と子のあたたかな交流を描いた本として楽しい一冊。単行本全2巻を1冊にまとめて文庫化。

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ぶたのぶたじろうさんは、あらしのうみにおそわれました。 / 内田麟太郎
ぶたのぶたじろうさんは、あらしのうみにおそわれました。
  • 著者:内田麟太郎
  • 出版社:クレヨンハウス
  • 装丁:単行本(80ページ)
  • 発売日:2009-07-23
  • ISBN-10:4861011523
  • ISBN-13:978-4861011528

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2009年9月24日

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