書評

『レヴィ=ストロース伝』(講談社)

  • 2020/01/29
レヴィ=ストロース伝 / ドニ・ベルトレ
レヴィ=ストロース伝
  • 著者:ドニ・ベルトレ
  • 翻訳:藤野 邦夫
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(482ページ)
  • 発売日:2011-12-21
  • ISBN-10:4062150050
  • ISBN-13:978-4062150057
内容紹介:
『親族の基本講造』、『悲しき熱帯』、『構造人類学』、『野生の思考』、『神話論理』…二十世紀後半の思想界に巨大な足跡をのこした人類学者の軌跡と人間クロード・レヴィ=ストロースとしての知られざる素顔に迫る。

世界を席巻した「知の巨人」の足跡

どんな分野であれ、ある時代に誰もが仰ぎ見る支配的な巨人がいるものだ。その存在のおかげで分野内の知見や経験は確実に深化発展し、さらには他の領域にも実りある刺激がもたらされる。2009年に100歳で亡くなったクロード・レヴィ=ストロースは、民族学・人類学においてまさにそのような巨人だった。

半世紀ほど前、「構造主義」という言葉とともに、英語読みするとリーバイ=ストラウスとなるこの名前は、私たちの普段着となったジーンズほどではないにせよ、人文知の領域で世界を席巻した。諸民族の婚姻体系、そして南北アメリカ大陸の先住民族の膨大な神話を精緻に分析して、人間精神の働きを支える普遍的な「構造」を探ったレヴィ=ストロースの仕事はどのようにして生まれたのか。そして人間精神の産出する行為および作品の理解にどのような新しい光をもたらしたのか。それを本書はこの碩学(せきがく)の残した著作や発言をていねいに読み解くことでわかりやすく伝えてくれる。

しかし本書は単なる思想の解説書ではない。西洋の絵画と音楽を愛し、「旅行と探検家を忌み嫌って」いたこの人物が、20代の頃にブラジルに渡ってアマゾン奥地の先住民のもとを訪れ、『悲しき熱帯』といういまや旅行記ジャンルの古典となった作品を書いたこと。ユダヤ系の出自のため、第2次世界大戦中はニューヨークに亡命することを余儀なくされ、やはり亡命していたアンドレ・ブルトンやマックス・エルンストらと交流し、とりわけ言語学者ロマン・ヤコブソンと出会って、のちの「構造主義人類学」の基礎が形づくられること。50歳くらいまではキャリア的には幾度も挫折を味わい、不遇の時期にユネスコのために書いた『人種と歴史』が、脱植民地化の進む世界のなかで広く支持され、諸文化のあいだに優劣はないという「文化相対主義」の考え方を浸透させたこと。

レヴィ=ストロースは親族や神話の構造を、いわば透明な数学的言語で表現し、人間についての学を「科学」にすることを目指した。しかし読者を何よりも魅了するのは、この知の巨人のきわめて「人間くさい」部分なのである。
レヴィ=ストロース伝 / ドニ・ベルトレ
レヴィ=ストロース伝
  • 著者:ドニ・ベルトレ
  • 翻訳:藤野 邦夫
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(482ページ)
  • 発売日:2011-12-21
  • ISBN-10:4062150050
  • ISBN-13:978-4062150057
内容紹介:
『親族の基本講造』、『悲しき熱帯』、『構造人類学』、『野生の思考』、『神話論理』…二十世紀後半の思想界に巨大な足跡をのこした人類学者の軌跡と人間クロード・レヴィ=ストロースとしての知られざる素顔に迫る。

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初出メディア

日本経済新聞

日本経済新聞 2012年2月12日

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