後書き

『「食べる」が変わる 「食べる」を変える:豊かな食に殺されないための普通の方法』(原書房)

  • 2020/03/12
「食べる」が変わる 「食べる」を変える:豊かな食に殺されないための普通の方法 / ビー・ウィルソン
「食べる」が変わる 「食べる」を変える:豊かな食に殺されないための普通の方法
  • 著者:ビー・ウィルソン
  • 翻訳:堤 理華
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(416ページ)
  • 発売日:2020-02-22
  • ISBN-10:4562057238
  • ISBN-13:978-4562057238
内容紹介:
「食」は喫煙や飲酒よりも恐ろしい「死のリスク第1位」。豊かに見えて実は貧しい現代人の食の構造を検証し、しかし単純な善悪論や完璧主義に陥ることなく、「普通」に食べる大切さを世界的なフードジャーナリストが指し示す。
喫煙や過度の飲酒は恐ろしい健康リスクですが、もっとこわいものがあります。そう、それはわたしたちが毎日食べている食事そのものです。
WHO(世界保健機関)をはじめとする各種の調査から、何をどれだけ食べるか、どう食べるかは、生活習慣と深くかかわる非感染性疾患にもっとも影響を与える要因であることがわかっています。「食」は、いわば「死のリスク第1位」なのです。
飽食と言われて久しい現代社会、人間の「食べる」という行為がこれほど劇的に変わった時代は歴史上かつてありませんでした。
豊かに見えて実は貧しい現代人の食の構造を検証し、しかしよくある単純な善悪論や完璧主義に陥ることなく、「普通」に食べる大切さを指し示す新刊『「食べる」が変わる 「食べる」を変える:豊かな食に殺されないための普通の方法』(ビー・ウィルソン著/堤理華訳)の訳者あとがきを抜粋して公開します。

「普通に食べる」が困難な時代を生き延びるために

著者は本書で、「現代社会でよりよく食べていくにはどうすればよいか」をテーマに掲げました。その背景には、世界における肥満と過体重の急増、とくに都市部で認められる肥満でありながら栄養失調という健康問題、食由来の疾患(2型糖尿病など)の世界的な広がりに対する危機意識があります。
「肥満や過体重はほんとうに個人の意志の弱さが原因なのか? 家庭の責任なのか? そうではないだろう、これは社会全体の問題であり、世界経済の仕組みが大きくかかわっているだろう」と著者は説き、おもに四つの視点から食の現状と未来を論じていきます。

第一は、均質化した世界の食料供給と食生活の問題です。
ノースカロライナ大学の栄養学教授バリー・ポプキンの「栄養転換」(現在は超加工食品主体のステージIVに該当)の概念を軸に、第二次世界大戦後から続く「質より量」の農業政策や、多様性が失われた農作物、精製植物油(おもに大豆油)の生産と使用の激増、多国籍食品企業のスナック食品や加糖飲料が中所得国や貧困国にまで浸透している現状などを示します。
このなかで、「量ではなく質において、世界でもっとも健康的な食生活を送っているのは富裕国ではなく、アフリカのサハラ以南の諸国に多い」という論文を発表した、ケンブリッジ大学の栄養疫学者今村文昭へのインタビューが掲載されているのも興味深いところです。

第二は、スピードや効率化を重視する現代特有の食生活の実態です。
間食の増加、食事時間の概念の稀薄化、時間に追われる感覚、そして社会の経済格差の問題。著者はもう一度立ち止まろうと訴えますが、けっして批判一辺倒ではありません。栄養代替食(ミール・リプレイスメント)の液体飲料、簡単に料理できる宅配食事キット、あるいは料理の宅配(現代版の出前)が登場した背景やそれらが支持される理由を丁寧に探っていきます。

第三は、クリーンイーティングに代表される絶対主義的なダイエット法への警鐘です。
わたしたちは不健康になるのを恐れるあまり、食物を極端に排斥しているのではないか、ほんとうにその必要があるのだろうか、食べるよろこびを失ってはいないだろうか、と著者は問いかけます。

第四は、未来への希望です。この「かならず未来は開ける」という姿勢が著者の真骨頂といえましょう。
たとえば、経済発展を遂げても自国の伝統料理を維持しようとした韓国の取り組み。南米有数の肥満大国だったチリが自国民の健康を守るために課した砂糖税、食品パッケージからの漫画キャラクターの追放、食品に提示を義務づけた原材料警告ラベル(たとえば「糖分が多い」など)。アムステルダムの経済支援を交えた健康対策と食育。
著者はこうした事例を紹介しながら、食由来の肥満や疾病を個人の問題にすり替えず、国や自治体や社会全体が協力すれば、現在の問題はたとえ時間がかかっても克服していけると力強く語ります。

著者はわたしたちを絵本『三びきのやぎのがらがらどん』の山羊にたとえます。わたしたちはかぐわしい緑の草原をめざす山羊、彼らの前に立ちはだかる醜いトロルは「食にかかわる現代の問題」です。それは無数の頭を持つトロルですが、わたしたちが日常レベルで「やっつけられる」ものもあると著者はいいます。
それは、料理とは、食とは「こうあるべきだ」という概念を捨てて、現代の便利さを取り入れながら料理を楽しみ、ときには外食や出前に頼りつつ、食のバランスをよい方向へ傾けていくことです。それは流行に流されないことでもあります。今の一歩が明日につながる、という著者のメッセージは前を向く勇気を与えてくれるでしょう。

[書き手]堤理華(翻訳家)
「食べる」が変わる 「食べる」を変える:豊かな食に殺されないための普通の方法 / ビー・ウィルソン
「食べる」が変わる 「食べる」を変える:豊かな食に殺されないための普通の方法
  • 著者:ビー・ウィルソン
  • 翻訳:堤 理華
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(416ページ)
  • 発売日:2020-02-22
  • ISBN-10:4562057238
  • ISBN-13:978-4562057238
内容紹介:
「食」は喫煙や飲酒よりも恐ろしい「死のリスク第1位」。豊かに見えて実は貧しい現代人の食の構造を検証し、しかし単純な善悪論や完璧主義に陥ることなく、「普通」に食べる大切さを世界的なフードジャーナリストが指し示す。

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