書評

『時間封鎖』(東京創元社)

  • 2017/07/08
時間封鎖〈上〉  / ロバート・チャールズ ウィルスン
時間封鎖〈上〉
  • 著者:ロバート・チャールズ ウィルスン
  • 翻訳:茂木 健
  • 出版社:東京創元社
  • 装丁:文庫(382ページ)
  • 発売日:2008-10-31
  • ISBN-10:4488706037
  • ISBN-13:978-4488706036
内容紹介:
ある夜、空から星々が消え、月も消えた。翌朝、太陽は昇ったが、それは贋物だった…。周回軌道上にいた宇宙船が帰還し、乗組員は証言した。地球が一瞬にして暗黒の界面に包まれたあと、彼らは1週間すごしたのだ、と。だがその宇宙船が再突入したのは異変発生の直後だった-地球の時間だけが1億分の1の速度になっていたのだ!ヒューゴー賞受賞、ゼロ年代最高の本格SF。

大風呂敷の醍醐味

SFの魅力のひとつは、いくらでも大風呂敷を広げられること。会社? 国家? 小さい小さい。せめて地球とか人類とか、そのくらいのスケールで考えなきゃ。

とはいえ、とてつもない大風呂敷と小説の説得力を両立させるのは至難の業。その難題を華麗にクリアしたのが、2006年のヒューゴー賞に輝くロバート・チャールズ・ウィルスン『時間封鎖』(茂木健訳、創元SF文庫)。邦訳も、09年の星雲賞海外長編部門を受賞している。

物語は、3人の少年少女が星空を見上げる初々しい場面で幕を開ける。だが、彼らが目撃したのは、夜空のすべての星が(月もろとも)消えてしまう、未曽有の大事件だった。いったいなにが起きたのか?

翌朝、東の空からは、なにごともなかったように太陽が昇ってくる。だがそれは、黒点もフレアもない、偽物の太陽だった。調査の結果、地球全体が黒いシールドのようなもの(まさに大風呂敷!)ですっぽり覆われていると判明。しかも、外の宇宙とは時間の流れかたが違っている。地球の時間だけが、1億分の1の速度に低下していたのだ! つまり、地球上の1年は、外の宇宙での1億年に相当する。

でもまあ、地球にいる分には関係ないでしょ。と思うかもしれませんが、今から50億年後には、太陽が膨張して地球を呑(の)み込んでしまう。はるか遠い未来の話だった地球滅亡の危機が、わずか50年後に迫る。生き残るには、どうにかしてシールドの外に出るしかない。脱出先の第1候補は火星。1億倍の時間差を利用して、壮大な火星移住計画が始まった……。

というわけで、本書は大風呂敷の時間SFであり、前代未聞の火星開拓SFでもあるというレアな長編。しかも、冒頭に出てくる3人の人間ドラマを軸に、じれったい恋愛模様などもはさみつつ進んでいくから、SFに馴染(なじ)みがない人もとっつきやすい。この巻で積み残された謎(どこのだれがなんのために地球を風呂敷でくるんだのか)も、続編の『無限記憶』と『連環宇宙』で鮮やかに解決されるのでご安心を。

無限記憶  / ロバート・チャールズ・ウィルスン
無限記憶
  • 著者:ロバート・チャールズ・ウィルスン
  • 翻訳:茂木 健
  • 出版社:東京創元社
  • 装丁:文庫(480ページ)
  • 発売日:2009-07-30
  • ISBN-10:4488706053
  • ISBN-13:978-4488706050
内容紹介:
40億年におよぶ地球の時間封鎖を解くと同時に、謎の超越存在“仮定体”は巨大なアーチを出現させた。それをくぐった先は、未知の惑星“新世界”。人類がこの星と自在に行き来をはじめて30年が過ぎたある日、失踪した父親を追って一人の女性が“新世界”に降り立つ。一方、この地に不思議な能力をもつ少年が生まれ、大陸を謎の降灰が襲った。“仮定体”の謎にせまる『時間封鎖』続編。

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連環宇宙  / ロバート・チャールズ・ウィルスン
連環宇宙
  • 著者:ロバート・チャールズ・ウィルスン
  • 翻訳:茂木 健
  • 出版社:東京創元社
  • 装丁:文庫(512ページ)
  • 発売日:2012-05-12
  • ISBN-10:4488706061
  • ISBN-13:978-4488706067
内容紹介:
時間封鎖を乗り越えて繁栄を謳歌する地球人類。謎めいた少年が持つノートには、1万年後の未来に復活した人々による手記が綴られていた。少年の秘密を追う精神科医サンドラたちは不自然な妨害に… もっと読む
時間封鎖を乗り越えて繁栄を謳歌する地球人類。謎めいた少年が持つノートには、1万年後の未来に復活した人々による手記が綴られていた。少年の秘密を追う精神科医サンドラたちは不自然な妨害に遭う。一方、手記の中では、12個の居住惑星を連結した"連環世界"を旅する移動都市が"仮定体"の真実を解き明かそうと、荒廃した地球をめざしていた。「時間封鎖」三部作の完結編。

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時間封鎖〈上〉  / ロバート・チャールズ ウィルスン
時間封鎖〈上〉
  • 著者:ロバート・チャールズ ウィルスン
  • 翻訳:茂木 健
  • 出版社:東京創元社
  • 装丁:文庫(382ページ)
  • 発売日:2008-10-31
  • ISBN-10:4488706037
  • ISBN-13:978-4488706036
内容紹介:
ある夜、空から星々が消え、月も消えた。翌朝、太陽は昇ったが、それは贋物だった…。周回軌道上にいた宇宙船が帰還し、乗組員は証言した。地球が一瞬にして暗黒の界面に包まれたあと、彼らは1週間すごしたのだ、と。だがその宇宙船が再突入したのは異変発生の直後だった-地球の時間だけが1億分の1の速度になっていたのだ!ヒューゴー賞受賞、ゼロ年代最高の本格SF。

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初出メディア

西日本新聞

西日本新聞 2015年6月24日

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