書評
『考えすぎた人: お笑い哲学者列伝』(新潮社)
「入り口」へ誘う快調な文章擬態
神託をもとめ「ソクラテスより頭のいい人間はいますか」と訊ねるところを、「頭の強い人間」と言い損ねたあとの顛末(てんまつ)から、サルトルを被告とする恋愛裁判まで、12名の哲学者の滑稽譚。「プラトンの対話ヘン」といった駄洒落の章題に、講釈あり、インタビューあり、子どもとの対話、合コンの中継ありと、著者の文章擬態は快調だ。意味はちんぷんかんぷんだけど人の心をぐいと鷲掴みにするような殺し文句が哲学書にはある。が、相手の顔色もおかまいなしに、論理を一貫させ、すべてを言い切らないと気がすまない、そんな哲学者のふるまいがとんちんかんを生む。言っていることは正しい(みたいだ)けどやっぱり違っているのでは……と、なかなかに痛いところを著者は突いてくる。
著者は「哲学入門」の門口まで読者を誘う「笑い話」集だと言うけれど(人はこれを「敬して遠ざける」ともいう)、哲学研究者こそ一読しておいたほうがいいかも。
朝日新聞 2013年08月11日
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