書評
『氷海のウラヌス』(祥伝社)
最終海戦の場面、出色の迫力
1941年の秋、日米開戦を目前に控えた日本は、開戦した場合に三国同盟の同盟国、ヒトラー・ドイツを戦いに引き込むべく、極秘作戦を開始する。秘密兵器、〈九三式魚雷〉をドイツに送り込み、その高性能をヒトラーにアピールして、参戦を促す作戦〈暁工作〉である。作戦遂行のため、ハイケン大佐を艦長とする、ドイツの仮装巡洋艦ウラヌスに、海軍の堀場大佐と望月大尉が同乗、問題の魚雷を積んでドイツに向かう。すでに、ドイツは英ソ両国と交戦状態にあり、いつ敵艦と遭遇するか分からない。しかし日本は、いまだ英米と開戦しておらず、ドイツ艦に日本の軍人が同乗していると分かれば、国際問題になる。
物語は、ウラヌスが途中の海で氷山や敵艦と戦いながら、ドイツへたどり着くまでの苛烈(かれつ)な航海を、サスペンス豊かに描き出す。ハイケン、堀場、望月それぞれのキャラクターが、鮮やかに立ち上がってくる。最後の海戦で〈九三式魚雷〉を、命令に反して使うかどうかの葛藤(かっとう)も含め、戦闘場面は近ごろ出色の迫力だ。ドイツ現代史の専門家という著者の面目躍如たるものがある。
朝日新聞 2010年7月25日
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