書評

『少女だった私に起きた、電車のなかでのすべてについて』(イースト・プレス)

  • 2020/06/26
少女だった私に起きた、電車のなかでのすべてについて / 佐々木 くみ
少女だった私に起きた、電車のなかでのすべてについて
  • 著者:佐々木 くみ
  • 出版社:イースト・プレス
  • 装丁:単行本(208ページ)
  • 発売日:2019-12-15
  • ISBN-10:4781618219
  • ISBN-13:978-4781618210
内容紹介:
痴漢という性犯罪が、12歳の少女を孤独と絶望に突き落とす。被害者が語る物語。

魂を奪う「犯罪」を軽視、放置するな

痴漢被害を聞いた途端、「でも、冤罪もあるよね」と知った口をきく人には、「痴漢がなくなれば冤罪もなくなるよね」とぶつける。痴漢と痴漢冤罪はライバル関係ではない。実際の件数も知らずに謎めいた比較を続ける現状は、引き続き痴漢被害が軽視されている証左ではないか。

いまから10年以上前、12歳の女子中学生・クミが6年間もの間、山手線で痴漢被害に遭い続けた経験を小説として描いた作品は、まずフランスで「Tchikan」と題して刊行された。「私には、自分の国を去りたい理由があった」と思わせるほどの、絶望的な日々だった。

痴漢に触られた後、「何か恐ろしいものが、私の身体の中に広がっていき、永遠に消すことができないような気がした」。家に帰り、母に打ち明けるも、「あなたも悪いのよ、わかってる?」と返ってくる。繰り返し痴漢に遭っても、もう母には切り出せない。「今日? 特に変わったことはなかったよ。ママ、いつもどおりだったよ」

厳しい校則のある保守的な学校、加えて、「元気ではつらつ」とは対極の表情をした自分に、痴漢が忍び寄る。時に、後をつけられ「ねぇ、僕を君のパパにしてくれない?」と言われ、時に耳元で「ありがとう」と囁かれた。クミの頭には、何度も繰り返し、自殺という手段がよぎってしまう。大学に入っても痴漢は止まず、先生に申し出ても「男なんてみんなそんなものだよ!」と返ってきた。

絶望に絶望がかぶさると、人間は麻痺する。その麻痺を狙って近づいてくる人間がいる。絶望を伝えても、気のせいだよ、それにあなたも……と矢が自分に向かう。今日も、この犯罪に打ちひしがれている人たちがいる。あまりに非道な慣習を、いつまで放置するのか。
少女だった私に起きた、電車のなかでのすべてについて / 佐々木 くみ
少女だった私に起きた、電車のなかでのすべてについて
  • 著者:佐々木 くみ
  • 出版社:イースト・プレス
  • 装丁:単行本(208ページ)
  • 発売日:2019-12-15
  • ISBN-10:4781618219
  • ISBN-13:978-4781618210
内容紹介:
痴漢という性犯罪が、12歳の少女を孤独と絶望に突き落とす。被害者が語る物語。

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サンデー毎日 2020年3月22日増大号

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