書評

『モノのはじまりを知る事典』(吉川弘文館)

  • 2020/07/23
モノのはじまりを知る事典 / 木村 茂光,安田 常雄,白川部 達夫,宮瀧 交二
モノのはじまりを知る事典
  • 著者:木村 茂光,安田 常雄,白川部 達夫,宮瀧 交二
  • 出版社:吉川弘文館
  • 装丁:単行本(272ページ)
  • 発売日:2019-12-15
  • ISBN-10:4642083685
  • ISBN-13:978-4642083683
内容紹介:
私たちの生活に身近なモノの誕生と変化、名前の由来、発明者などを通史的に解説。理解を助ける図版や索引を収め、調べ学習にも最適。

社会の変化とともに生まれ、消えるモノ

室町文化は、それまでの貴族や上流武家が「ハレの日」、すなわち特別な日を意識した文化とは異なり、さまざまな階層の人々の日常の生活に根ざした文化である。だからそれは後世にまで強い影響を与えることができた。私たちが住んでいる家にある畳・床の間・違い棚、それにお茶やお華などの芸事も、室町期に淵源(えんげん)をもつ。

……という説明が以前にはよく見られた。だが、それは昭和までの話。現代の1年の変化は明治より前の10年に匹敵するといわれ、世の中は平成、令和と進んで急速に変わってきた。いまは居住環境もがらりと変わったし、花嫁修業などという概念は消滅した。車や時計や万年筆は男の憧れだったが、車は走ればよい、など機能だけを重視され「遊び」が失われた。

断捨離なるものがもてはやされ、モノ自体へのこだわりは希薄になった。モノはネット空間に待機していて、必要に応じて現世に召還され、あとかたもなく消費される。昔の人は、モノにはつくも神という神が宿ると考えて大事にしたが、エコな今と「もったいない」の昔は、隔世の感がある。

そんな今だからこそ、本書はモノにこだわった。さまざまなモノの淵源を、練達な研究者4人が明らかにしていく。たとえばちゃぶ台。昭和の食卓といえばちゃぶ台だが、それは戦前の大家族制が崩壊して小家族が生活の単位となり、「貧しいながらも楽しいわが家」と一家団欒(だんらん)を現出した立役者であった。でもいまだ父権は不当に強力で、『巨人の星』の星一徹は、ちゃぶ台をひっくり返して怒鳴り散らす。現代のテーブルはひっくり返せない。おやじの横暴は、ちゃぶ台とともに消えたわけだ。モノは社会のありようの指標である。心して読みたい一冊。
モノのはじまりを知る事典 / 木村 茂光,安田 常雄,白川部 達夫,宮瀧 交二
モノのはじまりを知る事典
  • 著者:木村 茂光,安田 常雄,白川部 達夫,宮瀧 交二
  • 出版社:吉川弘文館
  • 装丁:単行本(272ページ)
  • 発売日:2019-12-15
  • ISBN-10:4642083685
  • ISBN-13:978-4642083683
内容紹介:
私たちの生活に身近なモノの誕生と変化、名前の由来、発明者などを通史的に解説。理解を助ける図版や索引を収め、調べ学習にも最適。

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初出メディア

サンデー毎日

サンデー毎日 2020年4月26日増大号

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