書評
『愛』(国書刊行会)
昨年夏、『ロマン』(国書刊行会)で日本における鮮烈デビューを果たしたソローキンの短編集(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は1999年)。十九世紀ロシア文学の構造から文体から何から何までを破壊し尽くす様が圧倒的だった『ロマン』同様、ソローキンは本書に収録された全十七作においても、やはり徹底して既成文学の文法を叩きのめすという形で、退屈から遠く離れたスリリングな読書体験を与えてくれる。
たとえば表題作における物語の切断。年寄りが若者に「ステパン・イリイチ・モロゾフが恋人のワレンチーナを愛したような愛し方」は誰にもできないという話をしている設定なのに、物語のあらかたは「…………」によって省略され、読者はその衝撃的な破局シーンしか読むことができないのだ。あるいは「真夜中の客」における説明の拒否。妻が夫とその知人によって腕を切断される話なのだが、何のためにそんなことをするのか、夫の知人たちは何者なのか、これまで読者が享受してきた物語の背景を知る権利をソローキンは無視してはばからないんである。
死体愛好、スカトロジー、スプラッター趣味、文体破壊といった掟破りの技法をふんだんに使って、ソローキンは文学の廃墟を現前させる。それは、しかし、不毛な行為ではない。人間には廃墟を美しいと感じてしまう感性もあるのだから。しかも、これは文学の遺産を取り込んだ上での戯れだ。知的レベルにおいても、実験精神においてもカッコイイことこの上もなし。カッコイイ、ただそれだけで読まれてしかるべき作品もある。世界は広いっ!
【この書評が収録されている書籍】
たとえば表題作における物語の切断。年寄りが若者に「ステパン・イリイチ・モロゾフが恋人のワレンチーナを愛したような愛し方」は誰にもできないという話をしている設定なのに、物語のあらかたは「…………」によって省略され、読者はその衝撃的な破局シーンしか読むことができないのだ。あるいは「真夜中の客」における説明の拒否。妻が夫とその知人によって腕を切断される話なのだが、何のためにそんなことをするのか、夫の知人たちは何者なのか、これまで読者が享受してきた物語の背景を知る権利をソローキンは無視してはばからないんである。
死体愛好、スカトロジー、スプラッター趣味、文体破壊といった掟破りの技法をふんだんに使って、ソローキンは文学の廃墟を現前させる。それは、しかし、不毛な行為ではない。人間には廃墟を美しいと感じてしまう感性もあるのだから。しかも、これは文学の遺産を取り込んだ上での戯れだ。知的レベルにおいても、実験精神においてもカッコイイことこの上もなし。カッコイイ、ただそれだけで読まれてしかるべき作品もある。世界は広いっ!
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