書評

『獅子渡り鼻』(講談社)

  • 2020/08/09
獅子渡り鼻 / 小野 正嗣
獅子渡り鼻
  • 著者:小野 正嗣
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(192ページ)
  • 発売日:2015-07-15
  • ISBN-10:4062931532
  • ISBN-13:978-4062931533
内容紹介:
小さな入り江と低い山並みに挟まれた土地に十歳の尊は連れて来られた。言葉が話せず体も動かせない兄と尊を、都会の狭い部屋に残していなくなった母があれほど嫌っていた田舎。豊かな自然と大人たち、霊的なるものに慈しまれ、尊は癒されていく。芥川賞受賞作「九年前の祈り」に連なる<希望と再生>の物語。

神話的自然と心に降る慈雨

小野正嗣はこれまで、どこか土俗的な感じのする土地と、そこに暮らす素朴だが一風変わった人々を描いてきた。

その一方で、人種や国籍にとらわれない、いわば「世界文学」と呼ぶしかない小説を書いてきた。2つの方向性は様々な小説の中で追求されてきた。

前回の芥川賞候補となった本作では、小野の2つの試みが統合されようとしている(ALLREVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2013年)。主人公は、10歳の少年「尊(たける)」。心身の不自由な、2歳年上の兄と、育児放棄している、男にだらしない母親との暮らしを離れ、母親の親戚の家に預けられている。母親が嫌った故郷は、少年の心に慈雨のような豊かさを降り注ぐのだった。

長い小説ではない。一人の少年の一夏の経験である。だが、母親の苛烈な記憶と、入り江と山に囲まれた神話的な自然が交錯する中で、少年の心情はたっぷりと描かれている。

この数年、同じ地名のもとに小野が描こうとしているのは、神話的な土地の地勢図と、そこで暮らす人々の群衆劇ではないかと思う。本作は、その中心をなす話の一つと読んだ。小野の小説世界は立ち上がりつつある。
獅子渡り鼻 / 小野 正嗣
獅子渡り鼻
  • 著者:小野 正嗣
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(192ページ)
  • 発売日:2015-07-15
  • ISBN-10:4062931532
  • ISBN-13:978-4062931533
内容紹介:
小さな入り江と低い山並みに挟まれた土地に十歳の尊は連れて来られた。言葉が話せず体も動かせない兄と尊を、都会の狭い部屋に残していなくなった母があれほど嫌っていた田舎。豊かな自然と大人たち、霊的なるものに慈しまれ、尊は癒されていく。芥川賞受賞作「九年前の祈り」に連なる<希望と再生>の物語。

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初出メディア

日本経済新聞

日本経済新聞 2013/01/30

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