書評

『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎)

  • 2023/03/04
蜜蜂と遠雷 / 恩田 陸
蜜蜂と遠雷
  • 著者:恩田 陸
  • 出版社:幻冬舎
  • 装丁:文庫(454ページ)
  • 発売日:2019-04-10
  • ISBN-10:4344428528
  • ISBN-13:978-4344428522
内容紹介:
近年その覇者が音楽界の寵児となる芳ヶ江国際ピアノコンクール。 自宅に楽器を持たない少年・風間塵16歳。 かつて天才少女としてデビューしながら突然の母の死以来、弾けなくなった栄伝亜夜20歳。 楽器店勤務のサラリーマン・高島明石28歳。 完璧な技術と音楽性の優勝候補マサル19歳。 天才たちによる、競争という名の自らとの闘い。 その火蓋が切られた。

音楽への愛情伝える、展開の妙

舞台は芳ケ江(よしがえ)国際ピアノコンクール。3年ごとに開催され、6回目を迎えるこのコンクールは、優勝者が世界屈指のSコンクールでも優勝した実績があり、近年評価が高い。コンテスタント(演奏者)や審査員たちだけでなく、調律師やテレビの取材者など、さまざまな人間の生き方、考え方が交錯し、白熱する。

顔触れは華やか。ジュリアード音楽院の学生で19歳のマサル。天才と呼ばれたが、母の死後ピアノから遠ざかっていた20歳の栄伝(えいでん)亜夜。楽器店に勤める28歳の高島明石(あかし)。ことに人々の注目を集める少年、16歳の風間塵(じん)は、音楽教育をほぼ受けたことがない。ピアノも持っていない。養蜂を仕事とする親と移動生活をしている。えっ、養蜂? けれど、突拍子もない設定では、という疑問が入りこむ隙を与えないストーリーの運び方はさすが恩田陸だ。

塵は、いまはなき音楽家のホフマンから「ギフト」と称され、推薦された注目の若手。その推薦状が面白い。「甘い恩寵(おんちょう)」ではなく「劇薬」とも呼ばれるのだ。「彼を嫌悪し、憎悪し、拒絶する者もいるだろう」と。第一次、二次、三次、本選。2週間にわたるコンクールだ。曲はバッハの平均律に始まり、モーツァルト、リスト、ショパン、ブラームス、バルトーク、プロコフィエフなど。

手に汗握る審査発表、歓喜と落胆。だが、このコンクールに塵がもたらすものは、もっとスケールの大きな、音楽に対する愛情だ。「狭いところに閉じこめられている音楽を広いところに連れ出す」という塵の言葉は本作の要といえる。

演奏者の心を他の演奏者の音楽が揺さぶり、感動が音楽への新たな感情を生む。希望という方向へストーリーが素直に整っていくという意味では、青春小説と呼ぶこともできるだろう。2段組みで5百ページ以上あるが、先へ先へと読める。著者のストーリーテラーとしての実力が見事に示された長編だ。

【下巻】
蜜蜂と遠雷 / 恩田 陸
蜜蜂と遠雷
  • 著者:恩田 陸
  • 出版社:幻冬舎
  • 装丁:文庫(508ページ)
  • 発売日:2019-04-10
  • ISBN-10:4344428536
  • ISBN-13:978-4344428539
内容紹介:
2次予選での課題曲「春と修羅」。この現代 曲をどう弾くかが3次予選に進めるか否かの 分かれ道だった。マサルの演奏は素晴らしか った。が、明石は自分の「春と修羅」に自信 を持ち、勝算を感じていた……。12人が残る 3次(リサイタル形式)、6人しか選ばれない 本選(オーケストラとの協奏曲)に勝ち進む のは誰か。そして優勝を手にするのは――。

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蜜蜂と遠雷 / 恩田 陸
蜜蜂と遠雷
  • 著者:恩田 陸
  • 出版社:幻冬舎
  • 装丁:文庫(454ページ)
  • 発売日:2019-04-10
  • ISBN-10:4344428528
  • ISBN-13:978-4344428522
内容紹介:
近年その覇者が音楽界の寵児となる芳ヶ江国際ピアノコンクール。 自宅に楽器を持たない少年・風間塵16歳。 かつて天才少女としてデビューしながら突然の母の死以来、弾けなくなった栄伝亜夜20歳。 楽器店勤務のサラリーマン・高島明石28歳。 完璧な技術と音楽性の優勝候補マサル19歳。 天才たちによる、競争という名の自らとの闘い。 その火蓋が切られた。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2016年11月13日

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