後書き

『天使と人の文化史』(原書房)

  • 2020/09/15
天使と人の文化史 / ピーター・スタンフォード
天使と人の文化史
  • 著者:ピーター・スタンフォード
  • 翻訳:白須 清美
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(368ページ)
  • 発売日:2020-08-25
  • ISBN-10:4562057831
  • ISBN-13:978-4562057832
内容紹介:
翼を持ち、白い衣をまとい、人を見守り良き方向へ導く天使のイメージは、いつ、どのようにできたのか。さまざまな宗教や伝承を辿る。
宗教を信じていなくても天使を信じていたり、芸術作品をとおして姿を知っていたりする人は、多いのではないでしょうか。
ミカエル、ラファエル、ガブリエルなどの名前を、アニメやゲーム内で聞いたことはないでしょうか。
そんな天使が、人間に寄り添ってきた歴史について記した『天使と人の文化史』の編者序文を特別公開します。

天使ってなんだろう

皆さんは天使と聞いてどんな姿を思い浮かべるだろうか。
大きな翼を持ち、白い衣を着た、穏やかで美しい天使だろうか。
それともキューピッドのような、ぽっちゃりした子供の天使だろうか。
それとも映画『ベルリン・天使の詩』の、コートを着た現代的な天使だろうか。
本書には聖書以前からの、実にさまざまな天使が登場する。その姿も役割も多種多様で、改めて人間の想像力に驚かされる。

著者のピーター・スタンフォードは一九六一年にイギリスのバーケンヘッドで生まれる。
ジャーナリストとして『デイリー・テレグラフ』紙などに寄稿。また伝記作家として、本書にも出てくるブロンウェン・アスターの伝記のほか、労働党内閣で刑法改革を行ったロングフォード卿や桂冠詩人のC・デイ=ルイス、バジル・ヒューム枢機卿などの伝記を執筆している。
また、『悪魔の履歴書』(大出健訳・原書房)をはじめ、宗教にまつわる著書も数多い。カトリック教会や教皇を扱ったTVやラジオのドキュメンタリー番組の制作も手がけている。

本書『天使と人の文化史』は、彼の最新作に当たるAngels : A Visible and Invisible History(2019)の全訳である。古代から現代に至る天使と人とのかかわりをたどることで、人間の歴史、思想、文化に光を当てた労作だ。
天使といえばまず神の使いと考えられるが、実は歴史を通じてさまざまな役割を与えられてきた。
神に代わって救いや罰を与える存在になったり、神のために人間を見張る者になったり、さらには人間が神に近づくための手本になったりする。
また中世には、天使はこの世界や宇宙の真理を解き明かす鍵と考えられ、天使学が盛んに研究された。芸術作品のモチーフとしての魅力は言うまでもないだろう。
本書では、こうした天使の役割の変遷を通じて、ヨーロッパ世界の歴史と文化への理解をよりいっそう深められるようになっている。

宗教的な存在からフリーランスへ

興味深いのは、かつてはユダヤ教、キリスト教、イスラム教といった宗教と密接にかかわっていた天使が、現代社会では一種のフリーランスの立場にいるということだ。
組織的な宗教や、さらには神への信仰が失われつつある一方で、天使の人気はますます高まっているようだ。
本書で著者はこう書いている。「困っていたり、危機に瀕していたりする人々にとって、一種の超自然的な救済力という魅力は、聖職者や科学者、芸術家が何と言おうと、ほぼ衰えることはない」。
現在、このあとがきを書いている時点で、世界じゅうが新型コロナウイルスの脅威にさらされている。また自然災害や社会問題など、現代人を取り巻く不安は数えきれない。
私たちに必要なのは、まさにこうした天使の「超自然的な救済力」なのかもしれない。そういった意味では、宗教の枠から自由になった天使は、今後もますます全世界で活躍するのではないだろうか。

天使を通して人間を知る

本書で、著者はまず、自分の天使体験について語っている。さらに彼が出会った、天使を目撃した人々の証言が紹介される。「守護天使」という概念に代表されるように、多くの人が自分の天使がいると考えているようだ。天使を信じていない人でも、天使のイメージは持っているだろう。
この天使の多様さは、人間の多様さにほかならないと私は思う。まさに、天使を知ろうとすることは、人間を知ろうとすることなのだ。

[書き手]白須清美(翻訳者)
天使と人の文化史 / ピーター・スタンフォード
天使と人の文化史
  • 著者:ピーター・スタンフォード
  • 翻訳:白須 清美
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(368ページ)
  • 発売日:2020-08-25
  • ISBN-10:4562057831
  • ISBN-13:978-4562057832
内容紹介:
翼を持ち、白い衣をまとい、人を見守り良き方向へ導く天使のイメージは、いつ、どのようにできたのか。さまざまな宗教や伝承を辿る。

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