書評

『街場の文体論』(文藝春秋)

  • 2022/10/06
街場の文体論 / 内田 樹
街場の文体論
  • 著者:内田 樹
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:文庫(318ページ)
  • 発売日:2016-03-10
  • ISBN-10:4167905809
  • ISBN-13:978-4167905804
内容紹介:
ウチダ先生最後の講義完全収録!内田樹さんが最後の講義で「どうしても伝えたかったこと」がつまった一冊は、「言語と文学」について熱く語りつくした集大成。急激に変化する世の中で、開発し… もっと読む
ウチダ先生最後の講義完全収録!
内田樹さんが最後の講義で「どうしても伝えたかったこと」がつまった一冊は、「言語と文学」について熱く語りつくした集大成。急激に変化する世の中で、開発しなければならない知的な力とは「生き延びるためのリテラシー」である―文体と言語について、どうしても伝えたかったことを教師生活最後の講義「クリエイティブ・ライティング」のなかで語り尽くす。文章を書く上で必要な「読み手に対する敬意と愛」が実践的にわかる一冊。文学理論や、言語学について、ほとんどなにも知らない学生にも伝わるように、非常にわかりやすくクリアに語られている。 村上春樹、三島由紀夫、橋本治という三人の「説明する力」の高い作家に共通することはなにか、というところから、本講義ははじまります。

学生に伝えた言葉の生成的経験 

官僚による大臣の答弁原稿から企業の謝罪広告まで(ひょっとしたら学校での「自由作文」も?)、だれに宛てて書かれているのかが不明な文章が溢(あふ)れている。ネット上では、暗闇のなかから礫(つぶて)のように言葉が投げつけられる。なんとも寒々とした光景だ。

言葉の起源はやるせない歌や叫びなのか、あるいは痛いばかりの祈りや願いなのか、よくわからないが、少なくともだれかへの呼びかけであったことはまちがいない。「どれほど非論理的であっても、聞き取りにくくても、知らない言葉がたくさん出てきても、『届く言葉』は届く」。このことの意味をきちんと伝えるべく、ウチダは大学教師としての最後のこの講義で、学生たちのこころの襞(ひだ)に沁(し)み込んでゆくような言葉を、手を替え品を替え紡ぎだす。

ウチダは、言葉が届くということでもっとも重要なことは、言語における〈創造性〉であるという。そしてそれは「読み手に対する懇請の強度の関数」であるとも。

言葉をなんとしても届けたいという切迫、それがあれば当然、あれやこれや情理を尽くして語ろうとするものだ。ウチダ自身、エマニュエル・レヴィナスの難解な文章にはじめてふれたとき、「ほとんど襟首をつかまれて、『頼む、わかれ、わかってくれ』と身体をがたがた揺さぶられているような感じ」がしたという。こころを鷲づかみにされるような読書体験のなかで、自分を組み立ててきたストックフレーズにひびが入り、これまで「味わったことのない感触の『風』が吹き込んでくる」、そういう「生成的」な経験が起こる。

こうした言葉の生成的経験を学生たちに知ってもらおうと、ウチダは「リーダブルでありながら、前代未聞のことを語る」ことをみずからに課し、「泥臭い」までに言葉を尽くしに尽くす。数あるウチダ本のなかでもとくに気合の入った一冊だとおもう。

【単行本】
街場の文体論 / 内田樹
街場の文体論
  • 著者:内田樹
  • 出版社:ミシマ社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(304ページ)
  • 発売日:2012-07-14
  • ISBN-10:4903908364
  • ISBN-13:978-4903908366
内容紹介:
よみがえる、最後の授業!言語にとって愛とは何か?全国民に捧げる、「届く言葉」の届け方。「街場シリーズ」最高傑作、誕生!

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

街場の文体論 / 内田 樹
街場の文体論
  • 著者:内田 樹
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:文庫(318ページ)
  • 発売日:2016-03-10
  • ISBN-10:4167905809
  • ISBN-13:978-4167905804
内容紹介:
ウチダ先生最後の講義完全収録!内田樹さんが最後の講義で「どうしても伝えたかったこと」がつまった一冊は、「言語と文学」について熱く語りつくした集大成。急激に変化する世の中で、開発し… もっと読む
ウチダ先生最後の講義完全収録!
内田樹さんが最後の講義で「どうしても伝えたかったこと」がつまった一冊は、「言語と文学」について熱く語りつくした集大成。急激に変化する世の中で、開発しなければならない知的な力とは「生き延びるためのリテラシー」である―文体と言語について、どうしても伝えたかったことを教師生活最後の講義「クリエイティブ・ライティング」のなかで語り尽くす。文章を書く上で必要な「読み手に対する敬意と愛」が実践的にわかる一冊。文学理論や、言語学について、ほとんどなにも知らない学生にも伝わるように、非常にわかりやすくクリアに語られている。 村上春樹、三島由紀夫、橋本治という三人の「説明する力」の高い作家に共通することはなにか、というところから、本講義ははじまります。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2012年09月16日

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