書評
『メイの天使』(東京創元社)
大人になると、入学式もなければクラス替えもなく、ドキドキするような出会いの場なんて、合コンくらいになってしまう。そんな誂(あつら)えものめいた出会いなんて、何かこうロマンに欠けるような気がしないでもないけれど、現実とは悲しいくらいせこいサイズで出来上がっているものなのである。だからこそ、せめて物語の世界には、たとえば『ある日どこかで』(創元推理文庫)や『ジェニイの肖像』(ハヤカワ文庫)みたいな、時空を超えた出会いを期待したくもなるわけで。
『メイの天使』の主人公はイギリス人の少年タム。離婚した母を「父さんと暮らしたい」と泣いて困らせて、手伝いをしようともしない、少しひねくれた男の子だ。ある日、人なつこい野良犬ウィニーに導かれるように廃屋の暖炉を抜けたタムは、第二次大戦中の世界にワープしてしまう。散々な目に遭っているタムを窮地から救ってくれたのが戦災孤児の少女メイ。豚を馬のように乗りこなす野生児だ。そんなメイの面倒を見ている農夫ナッターの家に、タムも身を寄せる。優しいナッターの手伝いをしながら、メイと過ごす心はずむ三日間。が、母親を見捨てることなんてできない。後ろ髪を引かれる思いで、タムは元の世界へと戻っていくのだが――。
タムが自分の世界に戻ってきてから知ることになる、農場とメイに起こった出来事は、読んでいて「ええっ!」と小さな叫び声を上げ、涙ぐんでしまうほど哀しい。でも、タムは諦めない。自分がナッターやメイのためにしてやれることを懸命に考え、そして行動にうつす。そこには、かつてのワガママでひ弱な男の子の姿はない。過去にタイムスリップし、メイと生活を共にしたことで、タムの心は大きく強く成長したのだ。
ボーイ・ミーツ・ガール。タムとメイの出会いと別れ、そして劇的な再会を描いたこの物語の読後感の素晴らしさは格別だ。今回、読み返してみて、初読時と同じ箇所で胸詰まらせ、嗚咽をもらしてしまったほどなんである。結末がどうなるかわかっていながら! 恋の物語ではないけれど、それよりもっと大きくて深い愛が、この本の中には溢れ返っている。合コンなんかよりステキな時間が過ごせること必定。読んでみてほしい。
【この書評が収録されている書籍】
『メイの天使』の主人公はイギリス人の少年タム。離婚した母を「父さんと暮らしたい」と泣いて困らせて、手伝いをしようともしない、少しひねくれた男の子だ。ある日、人なつこい野良犬ウィニーに導かれるように廃屋の暖炉を抜けたタムは、第二次大戦中の世界にワープしてしまう。散々な目に遭っているタムを窮地から救ってくれたのが戦災孤児の少女メイ。豚を馬のように乗りこなす野生児だ。そんなメイの面倒を見ている農夫ナッターの家に、タムも身を寄せる。優しいナッターの手伝いをしながら、メイと過ごす心はずむ三日間。が、母親を見捨てることなんてできない。後ろ髪を引かれる思いで、タムは元の世界へと戻っていくのだが――。
タムが自分の世界に戻ってきてから知ることになる、農場とメイに起こった出来事は、読んでいて「ええっ!」と小さな叫び声を上げ、涙ぐんでしまうほど哀しい。でも、タムは諦めない。自分がナッターやメイのためにしてやれることを懸命に考え、そして行動にうつす。そこには、かつてのワガママでひ弱な男の子の姿はない。過去にタイムスリップし、メイと生活を共にしたことで、タムの心は大きく強く成長したのだ。
ボーイ・ミーツ・ガール。タムとメイの出会いと別れ、そして劇的な再会を描いたこの物語の読後感の素晴らしさは格別だ。今回、読み返してみて、初読時と同じ箇所で胸詰まらせ、嗚咽をもらしてしまったほどなんである。結末がどうなるかわかっていながら! 恋の物語ではないけれど、それよりもっと大きくて深い愛が、この本の中には溢れ返っている。合コンなんかよりステキな時間が過ごせること必定。読んでみてほしい。
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