書評

『新装版・殺しの四人 仕掛人・藤枝梅安』(講談社)

  • 2021/10/31
新装版・殺しの四人 仕掛人・藤枝梅安 / 池波 正太郎
新装版・殺しの四人 仕掛人・藤枝梅安
  • 著者:池波 正太郎
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(288ページ)
  • 発売日:2001-04-13
  • ISBN-10:4062731355
  • ISBN-13:978-4062731355
内容紹介:
品川台町に住む鍼医師・藤枝梅安。表の顔は名医だが、その実、金次第で「世の中に生かしておいては、ためにならぬやつ」を闇から闇へ葬る仕掛人であった。冷酷な仕掛人でありながらも、人間味溢れる梅安と相棒の彦次郎の活躍を痛快に描く。「鬼平犯科帳」「剣客商売」と並び称される傑作シリーズ第一弾。

人間味あふれる非情な殺し屋

司馬遼太郎が次第に歴史づいていったあと、大衆時代小説のうまみを与えてくれるのは池波正太郎と早乙女貢くらいなものだ。それだけに彼らの存在は貴重である。とくに池波の場合は、江戸の市井人の体臭をつかんでおり、それが最近の諸作には無理なく生きている感じだ(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は1973年)。「鬼平犯科帳」から「仕掛人・藤枝梅安」にいたる過程で、彼は自分の持ち味をさりげなく出す方法を身につけたようだ。それ以前と以後とでは、まるで違う。つまりうまくなったのだ。

「鬼平犯科帳」の長谷川平蔵は、仕事の鬼でありながら日常生活は実にものわかりがいい。「仕掛人・藤枝梅安」の梅安も、非情な商売に従いながら、生活をたのしむような側面がみられる。「おれの足音」の大石内蔵助にも、苦労人としての人間味が彫りこまれていたし、「剣客商売」にも、人世を味わいながらも剣客としての骨を失わない秋山小兵衛という人物が登場する。いずれも技にぬきんで、きびしい仕事や目的を持ちながら、他の面では人生の達人である点で共通しているが、それもあるいは作者の“漢(おとこ)”としての理想像かもしれない。

「殺しの四人」は〈仕掛人・藤枝梅安〉シリーズの第一冊である。梅安は表向きは鍼医者で、近所の人々から名医としたわれているが実は殺しを専業とする仕掛人だ。仕掛人の仕事は、顔役の依頼によって金をもらい、人を殺す。金を受けとった以上、目的をはたすことだけがその役割で、そこにどういう事情があるかは問うことを許されない。

第一話の「おんなごろし」では薬研堀(やげんぼり)の料亭「万七」の後妻を殺してほしいとたのまれた梅安が、以前にも「万七」の先妻を得意の針で殺したことがあるだけに不審を感じ、タブーを犯してその事情をさぐり、その女を刺す。そして「万七」の後妻は梅安が幼いときに別れた実の妹だったという設定が、いかにも非情な殺し屋の世界をうかがわせる。

第二話の「殺しの四人」は表題にとられた作品だが、ここでは梅安は楊子つくりの彦次郎と組んで、梅安を妻の敵とねらう浪人とその仲間の二人とわたりあい、それを倒すのだが、このくだりには梅安をこの商売に追いこんだ不幸な事情が説明されている。

コンビの彦次郎とはその後も伊勢参りの旅に出て、彦次郎の妻子の敵を討ったりするが、ときにはいったん殺しをひきうけながら、ねらう相手よりは依頼人の方が悪いとして、正義に味方することもあり、非情なようでいて、結構人間味のあるところが、梅安たちの取柄かもしれない。

作者は「あとがき」の中で、「人間は、よいことをしながら悪いことをし、悪いことをしながらよいことをしている」と述べているが、梅安はその典型であり、そういったキャラクターづくりがこの連作をハードボイルドとは違った味のものに仕上げているようだ。

仕事の鬼でありながら、人世をたのしむわけ知りであるタイプを好んで描く作者の意図も、この言葉につくされるように思う。

しかも庶民の日常感覚にふれてくるような、料理の話などが織りこまれ、適度なつやっぽさもあっておもしろく読める。梅安らの生活は剣ケ峰にたつようなきわどいもので、無常感をさそうが、それも現代人の好みと合致しているのではないか。
新装版・殺しの四人 仕掛人・藤枝梅安 / 池波 正太郎
新装版・殺しの四人 仕掛人・藤枝梅安
  • 著者:池波 正太郎
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(288ページ)
  • 発売日:2001-04-13
  • ISBN-10:4062731355
  • ISBN-13:978-4062731355
内容紹介:
品川台町に住む鍼医師・藤枝梅安。表の顔は名医だが、その実、金次第で「世の中に生かしておいては、ためにならぬやつ」を闇から闇へ葬る仕掛人であった。冷酷な仕掛人でありながらも、人間味溢れる梅安と相棒の彦次郎の活躍を痛快に描く。「鬼平犯科帳」「剣客商売」と並び称される傑作シリーズ第一弾。

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初出メディア

週刊朝日

週刊朝日 1973年5月11日

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