書評

『はんぷくするもの』(河出書房新社)

  • 2020/11/11
はんぷくするもの / 日上秀之
はんぷくするもの
  • 著者:日上秀之
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(120ページ)
  • 発売日:2018-11-15
  • ISBN-10:4309027601
  • ISBN-13:978-4309027609
内容紹介:
すべてを津波に流された者、波の飛沫一滴すらかからなかった者―毅、30代独身、自営業、資格ナシ、友だちひとり。タタミ十畳の仮設商店で、今日も3,413円のツケを巡る攻防がはじまる。第55回文藝賞受賞作。

声上げぬ人々の震災経験

第55回文芸賞受賞作。わずか十畳ほどのプレハブの仮設店舗。主人公の毅は、今日もそこにいる。訪れる客はまばらだ。いないわけではない。同級生の武田や、まったくツケを払わない古木さんら、キャラの立った客が来て、毅の母親との間には妙にのどかなやりとりもある。

だが、この小説の美点はそこではない。東日本大震災の際に、津波によって家を流され、その後、仮設店舗を営業している人間とその客とは、いわば声をあげることのない人々なのだ。

小説に描かれることの少ない、強い自己主張をしない人々。派手さのない、市井の人々と震災の経験を、この小説は飄々としたユーモアで包んで描く。小説家の視点のユニークさが素晴らしい。
はんぷくするもの / 日上秀之
はんぷくするもの
  • 著者:日上秀之
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(120ページ)
  • 発売日:2018-11-15
  • ISBN-10:4309027601
  • ISBN-13:978-4309027609
内容紹介:
すべてを津波に流された者、波の飛沫一滴すらかからなかった者―毅、30代独身、自営業、資格ナシ、友だちひとり。タタミ十畳の仮設商店で、今日も3,413円のツケを巡る攻防がはじまる。第55回文藝賞受賞作。

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初出メディア

日本経済新聞

日本経済新聞 2019年1月31日

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