前書き

『関ケ原合戦全史 1582-1615』(草思社)

  • 2021/02/24
関ケ原合戦全史 1582-1615 / 渡邊 大門
関ケ原合戦全史 1582-1615
  • 著者:渡邊 大門
  • 出版社:草思社
  • 装丁:単行本(512ページ)
  • 発売日:2021-01-25
  • ISBN-10:4794224931
  • ISBN-13:978-4794224934
内容紹介:
日本史上「最大の合戦」を三十年のタイムスパンで読み解く。秀吉の晩年から会津征伐、関ヶ原本戦、東北・九州の戦い、豊臣家滅亡まで── 関ヶ原合戦(一六〇〇年)はわずか半日で終結した… もっと読む
日本史上「最大の合戦」を
三十年のタイムスパンで読み解く。
秀吉の晩年から会津征伐、関ヶ原本戦、
東北・九州の戦い、豊臣家滅亡まで──

関ヶ原合戦(一六〇〇年)はわずか半日で終結した戦いだが、
この戦の遠因は、本能寺の変(一五八二年)を経て秀吉時代になって以降の、
独裁体制のひずみと諸将間の確執、各大名家の家中問題にあった。
本書では、秀吉の晩年から、五大老五奉行による政権運営時代、
会津征伐、関ヶ原本戦、東北・九州の戦い、家康による戦後処理、
豊臣家滅亡による「関ヶ原体制」の終焉(一六一五年)までの実態を、
良質な一次史料と最新研究を用いて解明。
後世の編纂物などの二次史料に影響されがちな関ヶ原合戦史を訂正し、
今語りうる史実の全体像をつまびらかにする。


●「家康を筆頭とする五大老は、石田三成ら五奉行より上位」は誤り
●直江兼続が家康方に宛てた「直江状」は、完全なる偽文書か
●「小山評定はあったのか、なかったのか」を詳細に検討する
●関ヶ原開戦時の、井伊直政と松平忠吉の「抜け駆け」の真相
●西軍に与した小早川秀秋の心は、以前から家康に向いていた
●九州を席巻した黒田如水の驚嘆すべき「広島制圧プラン」
●東軍勝利は、豊臣家没落を意味したわけではなかった
かの有名な関ヶ原合戦(一六〇〇年)は、時間だけ見るとたった半日で終結した戦いですが、この戦の遠因は、本能寺の変(一五八二年)を経て秀吉時代になって以降の、独裁体制のひずみと諸将間の確執、各大名家の家中問題にありました。本書は、良質な一次資料を用いて俗説や新説を考証しながら、三十年という長い時間の中で関ヶ原合戦を検証することで、これまで見えていなかった合戦に至るまでの道すじから合戦後の政治体制の変容にまで光を当てます。今回は、本書より「はじめに」を転載いたします。

最新研究を用いた、今語りうる史実のすべて

慶長五年(一六〇〇)九月十五日、関ヶ原合戦は美濃国不破(ふわ)郡関ヶ原(岐阜県関ケ原町)において、徳川家康が率いる東軍と石田三成が率いる西軍とが激突し、わずか半日で東軍の勝利に終わった。東北や九州でも東軍と西軍が激突したが、最終的に勝利したのは東軍だった。一連の合戦をめぐっては、さまざまな逸話の類が残っており、話題に事欠かない。

関ヶ原合戦の概要については、古くは兵学者・宮川尚古の手になる『関原軍記大成』(正徳(しょうとく)三年〈一七一三〉成立)などの編纂物に書かれ、近代に至っては参謀本部編『日本戦史 関原役』(明治二十六年〈一八九三〉刊行)にも詳細に記されている。『日本戦史 関原役』は参謀本部が総力を挙げて作成したこともあり、関ヶ原合戦のその後の研究に大きな影響を与えた。

文学作品でも、作家・司馬遼太郎が小説『関ヶ原』(新潮社、一九六六年)を著し、昭和五十六年(一九八一)にTBS系列でドラマ化された。平成二十九年(二〇一七)には映画化もされたので、ご存じの方も多いはずだ。司馬の作品はそれぞれの人物が魅力的に描かれていることもあり、世に広く読まれた。皆さんが知る関ヶ原合戦の全体像は、おおむね右の作品に依るものだろう。

ところが、『関原軍記大成』などの編纂物や『日本戦史 関原役』には記述内容に誤りが認められ、史料の裏付けがない逸話の類も多々載せている。また、司馬作品はあくまで文学というフィクションであり、後世の編纂物に拠っている記述も多く、必ずしも史実に忠実であるわけではない。関ヶ原合戦に関わる史料は興味深い写しの書状も残っているが、筋の悪いものが多く、偽文書も少なくない。そうした関ヶ原合戦の逸話などは、十分に検証されないまま独り歩きしているのが現状である。

近年に至って、関ヶ原合戦やその周辺をめぐる政治情勢などの研究が進展し、これまでの俗説の修正や新説の提起なども行われている。それらの研究成果には、目を見張るものがある。ただし、ウケを狙ったような突拍子もない説が流布するという、遺憾とすべき状況もある。

 

三十年の時間の中で見えてくること

一方で、いわゆる関ヶ原本戦や、東北や九州における戦いが個別にクローズアップされる反面、前後の政治過程を含めて一貫して書かれた通史は乏しい。関ヶ原合戦に至る道のりは、各大名家の家中の問題、豊臣政権の運営の問題、それらが複雑に絡み合い、矛盾を露呈したことを考慮しなければならない。

本書が起点とするのは、天正(てんしょう)十年(一五八二)六月の本能寺の変である。織田信長の突然の死は、政局に多大な影響を与えた。以後、紆余曲折を経て豊臣秀吉が天下を取り、新時代の幕開けとなった。何より重要なことは、各大名家における家中統制の問題などが関ヶ原合戦の遠因になったことである。本能寺の変以後の政治過程や各大名家の事情に触れているのは、決して関ヶ原合戦と無関係ではないからだ。

さらに、本書では関ヶ原における本戦だけではなく、東北、九州の戦いのほか、田辺(たなべ)城の攻防、毛利氏による四国侵攻なども取り上げた。また、関ヶ原合戦後の戦後処理に加えて、慶長八年(一六〇三)の江戸幕府の成立、そして慶長十九年(一六一四)にはじまる大坂の陣までの政治過程や諸政策について、長いスパンで検討した。最終的には、関ヶ原合戦後から江戸幕府の成立展開期を「関ヶ原体制」と位置付けた。「関ヶ原体制」が終焉を迎えるのは、慶長二十年(一六一五)五月の豊臣家滅亡である。本書の書名に「1582—1615」とあるのは、この理由による。

本書では、論争になった話題についても多く取り上げた。直江兼続(なおえかねつぐ)による「直江状」の真偽、「小山評定(おやまひょうじょう)」の有無については先行研究や史料に基づき、「直江状」が偽文書であること、「小山評定」に関しては「あった」と結論付けた。慶長四年(一五九九)閏(うるう)三月の黒田長政(くろだながまさ)ら七将による石田三成襲撃事件についても、実際は襲撃を行ったのではなく、三成への処罰を家康に訴えたという事実も先行研究に基づいて紹介した。

また、広大な領域を支配した毛利、宇喜多(うきた)、島津の各氏は、意外にも一族や家臣の統制に苦しみ、態勢を整えられないまま関ヶ原合戦に突入し、本戦では実力を十分に発揮できず、無念の敗北に至ったことを述べた。さらに、関ヶ原本戦における松平忠吉(ただよし)と福島正則(ふくしままさのり)による抜け駆けがなかったこと、小早川秀秋(こばやかわひであき)が合戦前日には東軍に与(くみ)していた事実などについても触れている。

本書により、単に関ヶ原合戦の直接の経緯や合戦の経過を知るにとどまらず、合戦の遠因となった秀吉政権期の政治過程から合戦後の関ヶ原体制の終焉までを含めてご理解いただけると幸いである。


[書き手]渡邊 大門(わたなべ・だいもん)
1967年、神奈川県生まれ。歴史学者。関西学院大学文学部史学科日本史学専攻卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。
関ケ原合戦全史 1582-1615 / 渡邊 大門
関ケ原合戦全史 1582-1615
  • 著者:渡邊 大門
  • 出版社:草思社
  • 装丁:単行本(512ページ)
  • 発売日:2021-01-25
  • ISBN-10:4794224931
  • ISBN-13:978-4794224934
内容紹介:
日本史上「最大の合戦」を三十年のタイムスパンで読み解く。秀吉の晩年から会津征伐、関ヶ原本戦、東北・九州の戦い、豊臣家滅亡まで── 関ヶ原合戦(一六〇〇年)はわずか半日で終結した… もっと読む
日本史上「最大の合戦」を
三十年のタイムスパンで読み解く。
秀吉の晩年から会津征伐、関ヶ原本戦、
東北・九州の戦い、豊臣家滅亡まで──

関ヶ原合戦(一六〇〇年)はわずか半日で終結した戦いだが、
この戦の遠因は、本能寺の変(一五八二年)を経て秀吉時代になって以降の、
独裁体制のひずみと諸将間の確執、各大名家の家中問題にあった。
本書では、秀吉の晩年から、五大老五奉行による政権運営時代、
会津征伐、関ヶ原本戦、東北・九州の戦い、家康による戦後処理、
豊臣家滅亡による「関ヶ原体制」の終焉(一六一五年)までの実態を、
良質な一次史料と最新研究を用いて解明。
後世の編纂物などの二次史料に影響されがちな関ヶ原合戦史を訂正し、
今語りうる史実の全体像をつまびらかにする。


●「家康を筆頭とする五大老は、石田三成ら五奉行より上位」は誤り
●直江兼続が家康方に宛てた「直江状」は、完全なる偽文書か
●「小山評定はあったのか、なかったのか」を詳細に検討する
●関ヶ原開戦時の、井伊直政と松平忠吉の「抜け駆け」の真相
●西軍に与した小早川秀秋の心は、以前から家康に向いていた
●九州を席巻した黒田如水の驚嘆すべき「広島制圧プラン」
●東軍勝利は、豊臣家没落を意味したわけではなかった

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
草思社の書評/解説/選評
ページトップへ