書評

『球体写真二元論―私の写真哲学』(窓社)

  • 2023/09/04
球体写真二元論―私の写真哲学 / 細江 英公
球体写真二元論―私の写真哲学
  • 著者:細江 英公
  • 出版社:窓社
  • 装丁:単行本(239ページ)
  • 発売日:2006-03-01
  • ISBN-10:4896250761
  • ISBN-13:978-4896250763
内容紹介:
人間写真家細江英公への誘い!自伝三部作完結。未公開写真を含む巨匠の仕事の全容を俯瞰する。その写真から豊饒な作家魂と写真哲学が見えてくる。

死を生に、瞬間を永遠に 

カメラのシャッターを切れば写真はうつる。そのとき写真は外界の反映、つまり現実の「鏡」になっている。しかし、被写体やレンズの選択、アングルや絞りの調節によって、写真家は現実の反映を自己表現に変える。その意味で、写真は、写真家の心の「窓」でもある。この記録と表現、客観と主観の矛盾のなかに、写真芸術のダイナミズムがひそんでいる。

細江英公は写真を、客観を北極とし主観を南極とする球体だという。この球体上では、写真家が客観的記録をめざして北極に到達しても、そのまま旅を続ければ、ふたたび主観という反対の極に向かうことになる。そのような写真のありようを、著者は「球体二元論」と名づけるのである。

細江は『ガウディの宇宙』では、石の建築という死んだ物質をまるで生きている皮膚のように描きだし、物質を、死を、肉体化した。

逆に、三島由紀夫をモデルとした『薔薇刑』では、生と死を二極に置き、生きている三島の肉体を永遠化し、変化しない死に変えた。

写真とは瞬間を永遠に変えることもできれば、死の永遠を生の瞬間に変換することもできる錬金術なのだ。ここに細江芸術の秘密がある。
球体写真二元論―私の写真哲学 / 細江 英公
球体写真二元論―私の写真哲学
  • 著者:細江 英公
  • 出版社:窓社
  • 装丁:単行本(239ページ)
  • 発売日:2006-03-01
  • ISBN-10:4896250761
  • ISBN-13:978-4896250763
内容紹介:
人間写真家細江英公への誘い!自伝三部作完結。未公開写真を含む巨匠の仕事の全容を俯瞰する。その写真から豊饒な作家魂と写真哲学が見えてくる。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2006年5月14日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
中条 省平の書評/解説/選評
ページトップへ