前書き

『権力は腐敗する』(毎日新聞出版)

  • 2021/09/03
権力は腐敗する / 前川 喜平
権力は腐敗する
  • 著者:前川 喜平
  • 出版社:毎日新聞出版
  • 装丁:単行本(304ページ)
  • 発売日:2021-09-03
  • ISBN-10:4620326968
  • ISBN-13:978-4620326962
内容紹介:
菅政権でも国政私物化が続き、さらに官邸官僚による支配構造が強化。安倍政権と全面対決した著者が腐敗政治を問い質する。
「公正・公平であるべき行政が歪められた」として政権の「嘘」を暴き、「権力私物化」の構造を糾弾し続ける元文部科学事務次官、前川喜平氏の最新刊『権力は腐敗する』が2021年9月3日、発売となりました。本書を通じて権威を疑うこと、そして自分の頭で考えることが必須だと説く前川氏の「はじめに」を特別公開します。

権威を疑え。自分の頭で考えろ。さもなくば、民主主義は終わる

「権力は腐敗する傾向を持ち、絶対的な権力は絶対的に腐敗する(Power tends to corrupt and absolute power corrupts absolutely.)」。これは19世紀イギリスの思想家・歴史家ジョン・アクトン(John Acton、1834~1902)の言葉だ。

「自由とは良心の支配である(Liberty is the reign of conscience.)」。この言葉にアクトンの思想の精髄がある。彼の自由主義思想を特徴づけたのは、良心に対する揺るぎない信念だった。それは彼のカトリック信仰を土台としていた。アクトンが考える自由とは、好き放題に快楽を享受するための手段ではなく、内心において神と対話し、良心という内なる光に従って生きるという人生の目的そのものだった。

アクトンは自由への脅威について、現代にも通じる警告を発している。一つは「絶対民主政(absolute democracy)」の危険性だ。少数者を抑圧する多数者の専制のことである。もう一つは、彼が「現代の民族の理論(modern theory of nationality)」と呼んだ自民族中心主義だ。それは民族と国家を一体化し他民族への抑圧を正当化する。アクトンはカトリックの信仰者でありながら、ローマ教皇庁をも批判した。「権力は腐敗する」の警句は、直接には教皇庁の権威主義に宛てたものだ。彼は「教皇無謬(むびゅう)説」、すなわち「教皇が教皇座の権威のもとに行う宣言は誤り得ない」という教義を厳しく批判した。それは良心の自由に反する専制主義にほかならなかったからである。

自由を脅かす専制主義の危険は、現代の日本においても至るところに存在する。選挙で勝てば何をしても許されると考える安倍・菅政治や大阪維新の地方政治。外国人を人間扱いしない出入国管理政策や朝鮮学校を差別する教育政策に見られる「官製ヘイト」。大日本帝国が犯した数々の過ちを認めようとしない歴史改竄(かいざん)主義。その中で思想・良心の自由、学問の自由、表現の自由が追いつめられている。

「権力は腐敗する」というアクトンの警句が、今ほど当てはまる時はないだろう。森友学園問題、加計学園問題、伊藤詩織さん事件、桜を見る会とその前夜祭、統計不正問題、東北新社と総務省の癒着、「タニマチ」経済人の文化功労者選定など、安倍・菅政権による国政の私物化は枚挙にいとまがない。

怪しい金をもらう政治家や金を配って票をもらう政治家も後を絶たない。

自民党の下村博文政務調査会長は、文部科学大臣だった2013年と2014年に、獣医学部をつくろうとしていた加計学園から200万円を受け取った。自民党の甘利明税制調査会長は、TPP担当大臣だった2013年に大臣室で、都市再生機構(UR)への口利きの「お礼」だと、建設会社から50 万円の現金を受け取った。自民党の秋元司衆議院議員・元IR(統合型リゾート)担当内閣府副大臣は、IR事業への参入を目論んだ中国企業から賄賂を受け取ったとして起訴された。自民党の菅原一秀衆議院議員(当時)・元経済産業大臣は、地元の有権者に、メロンやカニを贈ったり、香典、会費、陣中見舞いなどの名目で現金を配ったりして、2021年6月東京簡易裁判所から罰金と公民権停止の命令を受けた。自民党の河井克行衆議院議員(当時)・元法務大臣と妻の河井案里参議院議員(当時)は、2019年の参議院選挙での買収などの罪で、それぞれ懲役3年(実刑)と懲役1年4カ月(執行猶予5年)の有罪判決を受けた。買収の原資は党本部から支給された1億5000万円ではないかと疑われており、その資金を与えた安倍晋三自民党総裁(当時)は、買収目的交付罪が疑われている。

かつて、腐敗した権力は革命や戦争といった暴力でしか打倒できなかった。代議制民主主義が確立した今日の日本では、腐敗した権力は選挙によって平和裏に倒されるはずだ。しかし安倍・菅政権は、あらゆる手段を使って腐敗を隠蔽してきた。威勢のいい言葉や耳触りのいい言葉で国民を騙し、派手なお祭り騒ぎで国民の目をくらまし、敵でない者を敵だと国民に思い込ませて国民の目を逸らす。官僚には文書の廃棄・改竄や虚偽答弁を強い、メディアには「公平性」の名のもとに政権批判を封じて、「臭いものに蓋(ふた)」をする。この政権からは強烈な腐臭が漂っているのだが、あまりにも多くの人たちが嗅覚を麻痺させられている。かくして腐った政権はいつまでも続く。

人々は権力の腐敗の実態を知らなければならない。私の知り得た限りで、それを明らかにしようとしたのが、この本である。

 [書き手]前川喜平(元文部科学事務次官・現代教育行政研究会代表)
権力は腐敗する / 前川 喜平
権力は腐敗する
  • 著者:前川 喜平
  • 出版社:毎日新聞出版
  • 装丁:単行本(304ページ)
  • 発売日:2021-09-03
  • ISBN-10:4620326968
  • ISBN-13:978-4620326962
内容紹介:
菅政権でも国政私物化が続き、さらに官邸官僚による支配構造が強化。安倍政権と全面対決した著者が腐敗政治を問い質する。

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