書評

『帝国ホテル・ライト館の謎 ―天才建築家と日本人たち』(集英社)

  • 2022/05/29
帝国ホテル・ライト館の謎 ―天才建築家と日本人たち / 山口 由美
帝国ホテル・ライト館の謎 ―天才建築家と日本人たち
  • 著者:山口 由美
  • 出版社:集英社
  • 装丁:新書(208ページ)
  • 発売日:2000-09-14
  • ISBN-10:408720054X
  • ISBN-13:978-4087200546
内容紹介:
1923年9月1日、帝国ホテル新館(フランク・ロイド・ライト設計)落成披露宴を関東大震災が襲った。ホテルは危うく火災を免れるが、そこには、立て役者であるはずの設計者ライトと、元支配人で設… もっと読む
1923年9月1日、帝国ホテル新館(フランク・ロイド・ライト設計)落成披露宴を関東大震災が襲った。ホテルは危うく火災を免れるが、そこには、立て役者であるはずの設計者ライトと、元支配人で設計依頼主の林愛作の姿はなかった。何故か。天才建築家とその生涯に於いて帝国ホテルの意味とは?ライト館に関わった日本人たちの運命は?数々の謎を追って日米を取材。20世紀日本の代表的な建築物を交差点として交わる、数奇な天才建築家の軌跡と、日本人たちの明治、大正、昭和

帝国ホテルの奇々怪々

じつは私は、あのフランク・ロイド・ライトの設計した帝国ホテルに入ったこともないし、実物を見た記憶もない。

やや悪趣味とも見える、あの神殿のような建物は、林愛作というニューヨークの美術商から引き抜かれた支配人が、当時不遇の住宅建築家に過ぎなかったライトを抜擢して設計させたものだったが、しかし、ライトも愛作も、新館竣工の祝賀会には出席していなかった。しかも、祝賀会のまさにその時、関東大震災が襲ってきたというのであった。

本書は、そういう劇的な出発をした帝国ホテル建築の謎を、ひとつひとつ解き明かして、じつに興味津々たるものがある。

愛作が更迭されたあと、名支配人犬丸徹三が着任するまでの短期間、このホテルを仕切った支配人山口正造はすなわち、本書著者山口由美さんの大伯父に当たる。

さて、ライトは近代建築の旗手のように崇拝されているが、その実、彼には毀誉半ばする影があった。

たとえば、彼はウィスコンシンの「タリアセン」と称する共同体(今も活動継続中)に君臨する独特のカリスマであったが、いっぽう、非常に恋多き男で、その恋人の一人はこともあろうにそのタリアセンで凶徒に惨殺されるという憂き目にさえ際会しているのである。

また帝国ホテル旧本館は、あのあまりにも有名な外観にも関わらず、実は、雨漏りの多い使いにくい建物だったということもよく分った。

そういうあれこれを、良くできたドキュメンタリ映画を見るように見せてくれるのがこの本で、読了するや、あのライト館に入ってみたかったなあ、という思いが募った。
帝国ホテル・ライト館の謎 ―天才建築家と日本人たち / 山口 由美
帝国ホテル・ライト館の謎 ―天才建築家と日本人たち
  • 著者:山口 由美
  • 出版社:集英社
  • 装丁:新書(208ページ)
  • 発売日:2000-09-14
  • ISBN-10:408720054X
  • ISBN-13:978-4087200546
内容紹介:
1923年9月1日、帝国ホテル新館(フランク・ロイド・ライト設計)落成披露宴を関東大震災が襲った。ホテルは危うく火災を免れるが、そこには、立て役者であるはずの設計者ライトと、元支配人で設… もっと読む
1923年9月1日、帝国ホテル新館(フランク・ロイド・ライト設計)落成披露宴を関東大震災が襲った。ホテルは危うく火災を免れるが、そこには、立て役者であるはずの設計者ライトと、元支配人で設計依頼主の林愛作の姿はなかった。何故か。天才建築家とその生涯に於いて帝国ホテルの意味とは?ライト館に関わった日本人たちの運命は?数々の謎を追って日米を取材。20世紀日本の代表的な建築物を交差点として交わる、数奇な天才建築家の軌跡と、日本人たちの明治、大正、昭和

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

スミセイベストブック

スミセイベストブック 2009年10月号

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
林 望の書評/解説/選評
ページトップへ