後書き

『スカートと女性の歴史:ファッションと女らしさの二〇世紀の物語』(原書房)

  • 2023/05/22
スカートと女性の歴史:ファッションと女らしさの二〇世紀の物語 / キンバリー・クリスマン=キャンベル
スカートと女性の歴史:ファッションと女らしさの二〇世紀の物語
  • 著者:キンバリー・クリスマン=キャンベル
  • 翻訳:風早 さとみ
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(312ページ)
  • 発売日:2023-04-24
  • ISBN-10:4562072717
  • ISBN-13:978-4562072712
内容紹介:
二〇世紀に流行した10の有名なスカートのスタイルを取り上げ、流行の背景と女性の社会進出、女らしさの定義の変遷を明らかにする。
20世紀に流行した10の有名なスカートのスタイルを取り上げ、流行の背景と女性の社会進出、女らしさの定義の変遷を明らかにした書籍『スカートと女性の歴史』より、訳者あとがきを公開します。

なにを着るか、どう生きるか

ファッションほど、その時代の美徳や価値観や政治や経済を、また人々の階級や人種やジェンダーなどを含むアイデンティティを映しだすのに効果的な方法はないかもしれません(本書でも、「ファッションほどアイデンティティの政治学を扱う芸術はない」と、メトロポリタン美術館服飾研究所のキュレーター、アンドリュー・ボルトンの言葉が紹介されています)。しかし、その反面、歴史の流れとともに新しい意味が多重に付加されてきたファッション・スタイルは、パンツは男らしさを示し、スカートは女らしさを示すといったような単純明快な記号としてもはや解釈することはできなくなったといえるでしょう。

本書は、このように複雑化していったファッションの歴史を、特に女らしさの表現という観点からスカートに焦点を絞って振り返ることで、各スタイルの歴史上の意義の変遷や後世に残した遺産について細かく考察していきます。そのうえで、多様性の時代ともいえる現代において、ファッションによって何がどのように表現されうるのか、読者に新しい視座を提供することを目指します。

女性がスカートをはいてドレスアップするのはなぜか。女子テニス選手がスカートをはきつづけるのはなぜか。近年、多くの進歩的な女性がパンツよりもまたスカートを選ぶようになっているのはなぜか。服を通して女性の身体を見せるとはどういうことか。

これらの問いからは、長いあいだ女性が担ってきた社会的立場と、そこから解放されるためにファッションを武器に試行錯誤しながら戦ってきた女性たちの勇姿が浮かび上がってきます。

各章を読み進めていくと、20世紀のうちに〝女らしさ〟の定義がこんなにも移ろいだのかと改めて驚くかもしれません。本書では、これらの試みの失敗例もいくつか紹介されています。著者は、「女性解放=パンツをはくなど、男性をまねすることではない」と、史実をもとに繰り返し主張します。それは、男性より劣っていると見なされてきた女性が、男性に追いつこうと男らしく取り繕うことにほかならないからです。

本書は、女性が女らしくあることの真の意味について問いかけてきます。これについて考えるとき、わたしたちはユニセックスや中性的、ジェンダーの多様性といったものの概念についても同時に深く考えることになるのです。

また本書ではスタイルごとに章が分けられているため、同じ時代のことが異なる章でたびたび言及されます。同時進行しているムーブメントの主眼点を変えて捉え直すことで、一本の線以上に複雑な形であるはずの本来の歴史をより立体的に感じ取ることができます。別の章では気づかなかった一面が垣間見えたとき、そこに意外な発見が生まれます。こうしたユニークな視点を提示できるのも、ファッションというものを驚くほど広範囲に多角的に考察し、数多くの著書にまとめてきた著者のなせる技といえるでしょう。

「わたしは女性であることから、黒人であることから、意見を持つことから逃げない」と、女優でシンガーのリアーナは、ありのままの自分を引き立てるドレスを身に纏いながら述べました。ファッションには、自分自身をありのままに示す力も、補う力も、装う力もあると思います。アイデンティティを追求する人々の闘争と、それに多大な貢献をしてきたファッションの重要性について、本書の邦訳を通じて読者のみなさまに新たな気づきを提供できれば幸いです。

もくじ


はじめに

第1章 デルフォス――女神のドレス

第2章 テニス・スカート――大きな変革をもたらした服

第3章 リトル・ブラック・ドレス――制服の女性たち

第4章 ラップ・ドレス――仕事のための服

第5章 ストラップレス・ドレス――ぎりぎりの女性たち

第6章 バー・スーツ――戦後の女性改革

第7章 ネイキッド・ドレス――あえて裸を見せる大胆ルック

第8章 ミニスカート――ファッション最後のフロンティア

第9章 ミディスカート――国を分ける服

第10章 ボディコン・ドレス――アクセサリーとしての身体

終わりに スカートの未来


[書き手]風早さとみ(訳者)
スカートと女性の歴史:ファッションと女らしさの二〇世紀の物語 / キンバリー・クリスマン=キャンベル
スカートと女性の歴史:ファッションと女らしさの二〇世紀の物語
  • 著者:キンバリー・クリスマン=キャンベル
  • 翻訳:風早 さとみ
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(312ページ)
  • 発売日:2023-04-24
  • ISBN-10:4562072717
  • ISBN-13:978-4562072712
内容紹介:
二〇世紀に流行した10の有名なスカートのスタイルを取り上げ、流行の背景と女性の社会進出、女らしさの定義の変遷を明らかにする。

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