骨通しいのち考える変わった「絵本」
年末年始の忙しい日々の中で、冬休み中の子どもとの時間も必要かなと思われた時にもってこいの、一風変わった絵本だ。全ページ動物たちのX線写真なのである。モノクロ写真へのところどころの彩色が幻想的で美しい。病院でX線写真撮影の仕事をしていたアリーが、不要になったX線撮影機を譲り受け、動物や花の写真を撮り始めた。死んだ動物たちをそのまま、昆虫の翅(はね)が完全でなくとも、エビの脚が傷ついていても、それを自然のよさとして撮影している。写真を送られた児童文学作家で自然・生命に関する著書で高評価を得てきたヤンが、「この写真で特別な本がつくれる!」と思い、「写真をよく見てもらうために文章を添えた」。
最初のページは「サソリ なんてかわいい!」だ。しっぽの先のハリから毒を出す恐(こわ)い動物として知られるサソリも、X線写真で脚の数を確かめるうちに、クモと近いことに気づいて身近になる。ヤンが愛情をこめて書く文章が対象への関心を高め、自然科学書としても良質のものとなっている。
マルハナバチは興味深い。同じハチでもスズメバチなどに見られる腰のくびれが見えずずんぐりしていると思いきや、X線写真ではみごとなくびれがある。「わずかな筋肉とほんの少しの外骨格で結びついているだけ」というハチに共通する性質を知ることになる。鳥でも同じ。メンフクロウも、膨らみのない他の鳥たちと同じすっきりした骨格を見せてくれる。
美しさでのヤンの一推しはシタビラメだ。半端じゃない数の骨と二つの目が同じ側についたピカソ風頭部が一体となった姿は、芸術作品だと言う。私は「タツノオトシゴ 例外中の例外」を選ぶ。内側にも外側にも骨があるとのこと、確かにX線を通しているはずなのに、黒い形がしっかり見える。捕食者が外の骨をなんとか突き破っても、中の骨との格闘が待っており、食べるまでの苦労が多すぎるので食べられることはほとんどないのだそうだ。一方、口が小さくあごもない、そのうえ胃もないので一日中ちいさな生きものを食べ続けているという。お腹(なか)の中で卵をかえすのはオスということも含めてかなり特殊な存在だが、そのX線写真はなんとも愛嬌(あいきょう)がある。
最近の生命科学研究は、蛍光を利用して細胞内の物質の動きを追うなど、体内の様子を詳細に知る可視化技術が急速に発達し、日々カラフルな画像が描き出されている。X線はレントゲンが1895年に見出(みいだ)し、1901年の第一回ノーベル物理学賞を受賞した古典的技術だ。しかし、白黒の限定的な画像を見て、生きものたちの形とその生き方を思い浮かべると、愛(いと)しさが湧いてくる。最新技術が論理に基づく攻撃的な性格をもつのに対し、発見者自身が思いがけず見えてきた画像に驚いたというX線写真は、自然と謙虚に向き合う感じがするのだ。考えさせられる。
ネズミ、キツネ、リスザルなどが並ぶ哺乳類の中で、ヤンが「ほかのどの動物よりも人間に似ている」と書くのはコウモリだ。空を飛ぶコウモリのX線写真は、確かに人間に近い。もっともやたらに掌(てのひら)が大きいけれど。形や生き方を進化と結びつけて考えるのも面白い。五〇種を超える動物たちの骨を通していのちに向き合い、親子での語り合いを楽しめる本だ。