書評
『だれでも簡単、すぐできる! 50℃洗い 驚異の調理法とおいしいレシピ』(実業之日本社)
50℃はいいことずくめ
ベストセラーのランキングリストで『50℃洗い』という書名を見たときは、洗濯についての本だと思った。ヨーロッパでは洗濯は水ではなくお湯ですると聞くし、ヨーロッパのメーカーの洗濯機はお湯洗いが基本設定だ。日本の大手クリーニング会社を見学したときも、お湯と水の二度洗いをしていた。皮脂などはお湯のほうがよく落ちる。ところがところが、『だれでも簡単、すぐできる! 50℃洗い』が洗うのは、衣類ではなく食材! 副題は「驚異の調理法とおいしいレシピ」だ。
著者のタカコ・ナカムラは料理研究家。素材を丸ごと食べる「ホールフード」を提唱している。少し前からブームが続く塩麹や乾物など日本の伝統食に注目した料理本も多数。監修の平山一政は蒸気が専門のエンジニアで、スチーミング調理技術研究会の代表だ。
食材をお湯で洗って大丈夫なのか。葉物野菜なんか、しなしなになってしまうのではないか。だいいち、旨味が流れ出てしまわないのか。誰もが心配するだろう。
逆である。お湯で洗うと野菜はシャッキリ、果物は甘みが増す。肉や魚も、臭みがとれておいしくなる、というのである。
なぜか。野菜は畑で収穫されると、気孔を閉じて水分の蒸発を防ごうとする。ところがお湯に浸けると気孔が瞬間的に開き、水分を補給する。それでシャキッとするのだという。
肉や魚は、店で売られているとき、すでに酸化が始まっている。お湯で洗うと酸化物や余計な脂肪が落ちるのでうまくなる。
ただし洗えない食材もある。たとえば卵は殻から菌が入りやすくなるし、チーズは溶ける。
お湯の温度は熱すぎると茹でるのと同じになってしまうし、ぬるいと腐敗菌が活発化する。五〇度がちょうどいいのだとか。
いいことずくめのようだが、最大の問題は温度管理か。温度計を見ながら下ごしらえをするなんて、毎日はやってられない?
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