書評

『エピタフ 幻の島、ユルリの光跡』(インプレス)

  • 2024/03/12
エピタフ  幻の島、ユルリの光跡 / 岡田 敦星野 智之
エピタフ 幻の島、ユルリの光跡
  • 著者:岡田 敦星野 智之
  • 出版社:インプレス
  • 装丁:ハードカバー(240ページ)
  • 発売日:2023-06-07
  • ISBN-10:4295016543
  • ISBN-13:978-4295016540
内容紹介:
北海道本島の東端、オホーツク海と太平洋に面した根室半島。昆布盛から距離にして2.6㎞。海面上に円盤の形をした横に平べったい島影がユルリ島だ。かつては昆布を採集する漁師の住居や番屋が… もっと読む
北海道本島の東端、オホーツク海と太平洋に面した根室半島。
昆布盛から距離にして2.6㎞。海面上に円盤の形をした横に平べったい島影がユルリ島だ。
かつては昆布を採集する漁師の住居や番屋が建っていたが、
家畜の馬を残して最後の島民がユルリを離れたのが半世紀前。
その後、近親交配の乱れをなくすために、5 年程度ごとに種馬が島に運ばれ、
最盛期には30 頭もの馬が暮らしていたが、その数は減り続け、
今では数頭だけが暮らすだけになっている。
この土地の固有の自然を守るために上陸することが厳しく制限されたこの島の情景は
まるで小説『ロスト・ワールド』の世界を彷彿させるようでもある。
その島を2011 年から撮り続けているのが写真家・岡田敦。
消えてゆくものたちを見つめ、何を守り、後世に伝えてゆくのか。
写真と文章で現代のロスト・ワールドを紹介していく。
北海道東北端にある根室の沖合に浮かぶ周囲8キロメートルの無人島ユルリ。上陸するだけでも根室市役所の許可がいる。しかし、かつて人が住んでいた時期もあり、彼らが島に運び込んだ馬の子孫が今もそこで生きているという。人影がまったく消え去った島の草原を馬たちが自由に駆け回っている幻の島である。

芸術学博士でもある優良な写真家の著者は、そこで出会う情景を、十年近く撮りつづけてきた。また、かつてそこに住んでいた人々との対話をおりまぜながら、野生化した馬の生態を描き出す。

この本を読みながら思うのは、ユルリ島に残された馬たちは幸福であるのか? という問いかけである。現実のユルリ島では、繁殖を抑えるために、雄馬は間引きされ、雌馬だけの群れができる。歳月を経れば、無人島の馬は絶滅する。だから、馬だけが暮らしている島は、いずれ幻のエピタフ(墓碑銘)しか残らない。

最後の住民にとって「人が間違ったことをしさえしなければ、馬はいつだって優しくて従順で、頼りになったんだ」という。2023年度JRA賞馬事文化賞に輝く美しく気品のある作品。
エピタフ  幻の島、ユルリの光跡 / 岡田 敦星野 智之
エピタフ 幻の島、ユルリの光跡
  • 著者:岡田 敦星野 智之
  • 出版社:インプレス
  • 装丁:ハードカバー(240ページ)
  • 発売日:2023-06-07
  • ISBN-10:4295016543
  • ISBN-13:978-4295016540
内容紹介:
北海道本島の東端、オホーツク海と太平洋に面した根室半島。昆布盛から距離にして2.6㎞。海面上に円盤の形をした横に平べったい島影がユルリ島だ。かつては昆布を採集する漁師の住居や番屋が… もっと読む
北海道本島の東端、オホーツク海と太平洋に面した根室半島。
昆布盛から距離にして2.6㎞。海面上に円盤の形をした横に平べったい島影がユルリ島だ。
かつては昆布を採集する漁師の住居や番屋が建っていたが、
家畜の馬を残して最後の島民がユルリを離れたのが半世紀前。
その後、近親交配の乱れをなくすために、5 年程度ごとに種馬が島に運ばれ、
最盛期には30 頭もの馬が暮らしていたが、その数は減り続け、
今では数頭だけが暮らすだけになっている。
この土地の固有の自然を守るために上陸することが厳しく制限されたこの島の情景は
まるで小説『ロスト・ワールド』の世界を彷彿させるようでもある。
その島を2011 年から撮り続けているのが写真家・岡田敦。
消えてゆくものたちを見つめ、何を守り、後世に伝えてゆくのか。
写真と文章で現代のロスト・ワールドを紹介していく。

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2024年1月27日

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